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(33)彩香…それはないだろう…

3人での同居が始まり、私は悠にいいようにこき使われていた。

買い物に行くと言えば付き合わされ、クラブに飲みに行き酔っ払ったから迎えに来いといわれれば迎えに行き、オフ日は昼夜と食事を作り、掃除洗濯は当たり前。

麻矢には、自分のことは自分でするので悠の面倒だけ見ればいいと言われた。

事務所の仕事ではなく、悠の世話で、ほとんど休むことなく働いていた。

私の前世はきっと夏場のアリんこかミツバチに違いない。


だけど、ステキなこともある。

麻矢は時折『ご褒美』と言って、いろいろな出会いを与えてくれている。

悠のおかげで忙しい毎日を過ごしている私だったが、麻矢といると楽しかった。

『今月のご褒美』と称して麻矢に連れて行ってもらった毎年開かれているというJICと

いう大手レーベル会社の大きなパーティ。

おいしい食べ物がたくさんあるわよ~と釣られホイホイと付いて行った。

有名な芸能人も沢山来ていて、麻矢は何人もの人と挨拶をしていた。

その中でも『Kei』という世界的に有名な作曲家の女性とは仲がよいのか熱い抱擁を

交わしていた。


世界的に有名な作曲家。芸能オンチの私でも確実に知っている。

最近『リフィール』という人気№1のロックグループのボーカルと結婚した人だ。

そんな超有名人を私にも紹介してくれた。麻矢は彼女を『結莉』と呼んでいた。

気さく過ぎるくらい気さくで、飾らない女性だったが、隣には彼女より6歳年下の

だんなさまの『修平』が、ぴったりとくっ付いていて片時も離れようとせず、

時折、結莉に頭を叩かれながらも、うれしそうに付いて回っていた。


…犬?ロックスターなのに…?

だけどとても、しあわせそうでうらやましかった。


時折貰う麻矢からの『ご褒美』。

これでまた頑張って働ける。




***********************************



彩香は、俺が家にいるときは必ず家にいてくれて、俺が仕事や飲みに行ったりして家に

いない日に合わせて、自分も友達と外出していたりしていた。


リビングで曲を作っていると、彩香は隣に座って俺の弾いているギターをジッと見て

聞いていたり、一緒にテレビやDVDを見たり、小さいケンカも時にはしたけど、それは

いつもくだらないことが原因で、数分後にはうやむやになっていた。

なんかそういう時間がしあわせで、彩香と二人でいられることが、うれしくてしかたがなかった。


だけど、俺は弟扱いなのか、家族みたいな感じなのか、はたまたあいつの無神経な性格

のせいなのか、絶対俺を男として見てくれていないことがあった…



その日は、リビングでレンタルしてきたDVDを見ることになり、彩香はブランケットを持ってきて、ソファには座らず、カーペットの上で包まって、画面に向かっていた。

俺も下に座り、並んで見ていた。



なぜか彩香は、少しエッチなシーンで、女優の揺れる胸だけを一生懸命見ている。

……こんなシーン、一緒に見るなんてものすごく辛いんですけど、俺的には…

が、彩香は平気な顔で見ている。


「あぁ…この女優さん、胸大きい…揺れてるよ、どうして男は胸の大きい女が

 好きなんだろね…はぁぁ」

ものすごくうらやましそうな声で言ったあと、俺を見て不服そうな顔で溜息をつき、

また画面に顔を向けた。


なんで俺を見る?!

「そ、そんなことないんじゃない?べ、別に胸大きくなくてもいいって云う人も

 いるだろうし…」

どうやら元彼の孝志も、学生のときに付き合っていた男もみんな基本的には巨乳が好みだったらしい。

彩香はどちらかというと、あるようで…ない?

見たことがないのでわからない…。


「もま、もま、もま」

「なに!もまもまって、うるさいわね」

もまれてたら大きくなるんじゃんねー?俺揉んでやろうか~?と、冗談ぽく言おうと思ったら

全然言えなかった…。


「しょうがない…Aカップでもイイよって、云ってくれる人探そ…」

彩香は一人小さい声で言った。



テレビの画面も彩香の顔も、まともに見れない俺に、救いの電話が入った。

誠だ…救世主よ、ありがとう。


俺が誠と話している時、映画に飽きたのか彩香が俺から離れ、ブランケットを広げ

端っこからコロコロと体をブランケットに巻きつけ丸まりながら俺に打つかってきた。

そしてまた向こうにコロコロと転がって行き、また俺のところに戻ってくるを繰り返し、

遊び始めた。


…………おいおい、何歳だよ。ったく…なんか、楽しそうに笑ってるし。


電話をしながら俺は彩香を見ていた。

ボンボンと俺にぶつかって嬉しそうな彩香だったが、俺がブランケットの端を押えると、

動けなくなり、もがき始めた。

「出れない…んですけど…」

俺に訴えかけていたが、無視して誠と話していると、急に動かなくなり静かになった。


ぷぅ~ぷっ。


えっ?

屁?…屁をこいた?



「………テメー、屁こいてんじゃねーよ!!」

「しょうがないじゃん。出ちゃったんだもん」

それがどうした!みたいな感じで、平気な顔で言われた。



「ちょっと、まってろ。誠」 

電話の向こうの誠に言い、「ざけんなよ、彩香!おまえ女だろ!!」 怒った。

恥じらいと言うもの持っていないのか!こいつは!


「へへへ」 彩香がブランケットから顔だけを出して笑った。

―――かわいい…

…かわいいとか、思ってんじゃねーよ、俺…

自分で自分に怒った。

屁こいた女をかわいいと思っているなんて、自分でも訳が分からなくなってきた。


「彼氏の前でも屁こいてたのか?!」 と聞いたら、

「彼の前でなんて。そんなはしたないことするわけないでしょ?!や~ね、

 家族の前だけよ」

と、俺をチラッと見て、再びあちらに転がって行ってしまった。


俺を男として見ていない出来事に少しばかり、しょげた。


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