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(32)彩香、引越し先決まる

マンションの更新が近づき、明け渡すことを不動産会社に伝えた。

吉田プロのお給料でもなんとか生活は出来るけど、家賃で大半を持っていかれるとなると

貯金もできないし、その前に、このマンションに住む理由もない。

元々、孝志と二人で住むために借りた少し贅沢な物件。

今の私にも、これからの私にも、必要のない住まいだ。

孝志と折半して買った家電も家具もリサイクルに出して、身軽な状態で引っ越すことを

決めていた。

安いアパートでいいと考えて探しているが、中々見つからない。

始めは郊外で…と思っていたが、吉田プロで働くことになって通勤を考えると頭が痛い。


私は日曜出勤する代わりに金曜日に休みを取り、不動産屋めぐりをしていた。



************************************



金曜日昼、ゴーディオンのメンバーは事務所に集まっていた。

そんなに事務所を愛しているのか心地いいのか、暇になるとなぜか事務所に集まる

仲良しバンド・ゴーディオン。



昼少し前に誠から連絡があり、俺は事務所に下りた。

応接室に行く途中、スタッフルームを覗き挨拶をするが、彩香の姿が見えなかった。

「彩香は?」 

「さやちゃん、今日はお休み取って部屋探しに行ってます~」

デンジャラス・佳代が、饅頭を食いながら教えてくれた。

あ~ぁ、あんこ口に付けて…。


「部屋?」

「今のマンション引っ越すみたいで、なんか6畳一間、探してるみたいです」


6畳…一間って…狭くね?もしかして予算の関係か?

あいつと別れたからか…金ないのか?彩香…


応接室に行くとメンバーがそろっていたが、俺は何も言わずソファに座って

彩香のことを考えていた。

「おい悠、静岡によぉ、いい茶畑があってさぁ、今度見に行こうぜ!!」

「……」

「お~い、悠く~ん。どうした?考え事か?お茶のことか?ははは~」 

「……」

「悠?…女のことか?」

「……」

「おい……あれ?」

「…」 


ガバッッ!!!

「うわっ!なんだよ、いきなり立ち上がって。びっくりさせんなよ!」

ずっと話しかけていたキヨも、みんなも驚いた。

俺は無言のまま勢いよく立ち上がり、応接室を出て4階に駆け上がった。




「麻矢ーーー!」

まだ寝ている麻矢の部屋のドアを、ノックもせずに開けた。

ピラピラとしたピンクのスケスケ衣装を纏っているが、寝相が悪いので腹から下は

丸出しだ。

こんな姿、彼氏に見せてんのか?気の毒に…。

大の字になっている麻矢を揺すり起した。


「おい!麻矢、頼みがある!起きろ!」

「…んん~~~、なに…ご用件は…なにざん…す…んがぁ」

怪しい返事をされるが、俺は続けた。


「彩香のこと…なんだけど…」

「……クッピィ~~~…」

クピィ…?

な、なんだよ!寝てんじゃねーよ!

「おい!麻矢!!聞けよ!!起きろよ!」


俺は麻矢のアイマスクをずらし、目をこじ開けた。

白目を向いている…。

「ふっ!!!」 

と、白目に息を思い切り吹きかけた。

「痛っっっ―――――――い!!!」

麻矢は力いっぱい俺を突き飛ばし、体を起した。

「誰よ!何すんのよぉ!!……って、誰もいないじゃない…」

ベッドの下に落とされ、転がっている俺が見えていない。

「お、俺…」

ベッドに手をかけ立ち上がった。


「…どうしたのよ?睡眠不足はお肌に悪いんだから邪魔しないでよ」

「物置にしている部屋…」

「ん?あぁ、悠の向かい側の部屋?南向きのいいお部屋で、悠用に用意したのに

 あんたったら『俺には西日が必要だぁぁ!』とか言っちゃって、西日ビンビンの

 部屋に移動しちゃって、あのお部屋を物置に使って、もったいないったらありゃ

 しないわよねぇ~まったく~の、お部屋がどうしたの?」


…説明長いし、っていうか、誰向けの説明?

「そんなことより、あの部屋貸していい??」

「貸すぅ?誰に?」

「彩香…。彩香、部屋探してんだよ。今の所、引越しするんだって…」

「前にそんなこと言ってたわね…なんか郊外に引っ越そうかなぁって」


麻矢は横目で俺を見て続けた。

「…なんでまたそんなことを考えたの?シメジに部屋貸そうって」

「え?……ここ、部屋空いてるし…あいつ金無いみたいだし…それにメ、メ、メシ…

 メシ作るのに、俺が、俺が仕事とかで遅くなっても、メシ作ってもらえるし!」


なんか俺、また一生懸命になってる…

彩香のことに一生懸命になってる。


俺は、自分でもわけのわからない言い訳を揃えて、必死に麻矢に訴えた。


麻矢が微笑んだ。

麻矢はドギマギしながら話している俺の頬を軽くたたき、笑いながら言った。

「わかった、わかった。OKよ!家賃も要らない、悠同様にね!」

そうだ、俺も家賃なんて払っていない。


彩香をここに住まわすのは構わないが、一応俺も芸能人で、事務所スタッフそれも女性と

同居となると、事務所側の了解も必要だということで、麻矢は社長と話をすると言い、

着替えて一緒に事務所に行った。



後で呼ぶからと麻矢は一人で社長室に入り、すぐ後に加山と相楽が呼ばれ社長室に

入っていった。

社長室の中でどんな会話がなされているのか俺には全くわからない。

その前に何も知らない彩香本人は、今だ物件探し中だ。



             ☆☆☆☆☆



麻矢が彩香に部屋を貸すことに事務所側の了解を得る話は、数分で終わった。

ただ、社長室から4人は中々出てこない。



「ったく、笑っちゃうでしょ?悠ったら~ほっほほほ~」

麻矢が高笑いをする。

「いやいや、悠のあの態度は彩香ちゃんのこと気になってるというか、恋…だよなぁ、

 あれは!はっははは~」 吉田が肩を揺らした。

「あっ、気づきました?悠の淡い恋心!」 相楽が言う。

「あら、私も気になっていたんですよ。あの二人見てると面白くて」 

加山も楽しそうに言った。


「わかりやすい性格なヤツだなぁ、悠は!」 

「シメジは…鈍いから悠の気持ちなんて1ミリもわかってないわね、きっと」 

「悠が女に真面目になるなんて考えられなかったが…ぶはははは」

吉田は嬉しそうに笑っていたが、そのあと真剣な顔になり、麻矢に言った。


「麻矢が一緒に同居しているからOKを出したんだぞ?悠と彩香ちゃん二人だけの

 同居はダメだ。たとえ、あの二人が付き合うことになったとしても、二人暮らしは

 今はNGだ」




「あっ、彩香ちゃんに連絡しないと。部屋みつけちゃったら大変!」 

加山が慌てて社長室を出て携帯を持って戻ってきた。



彩香はまだ不動産屋のPCで部屋を探している最中だった。

すぐに事務所に来るように言い、電話を切り、相談が始まってから小一時間後、

悠を社長室に呼んだ。



***********************************



加山さん…なんだろう。急用があるからすぐ会社に来い!って…

もしかして、解雇…

ええーーーー、どうしよう。

働きが悪いから?

月給泥棒とか思われてる?それは否定できない。


また要らぬ想像をし、足取り重く、呼び出しを喰らってから一時間ほどで事務所に着いた。

「彩香ちゃん、社長室に来るようにって!」

デンジャラスに言われた。


ぁぁ…完璧にリストラの話だ…

また人生一からやり直し…か…

ガックリと力なくドアを叩いた。


…みなさん、お揃いで…

あっ、麻矢さんまでいるのね…そうだよね、紹介者、麻矢さんだもんね…

なんの役に立たない人間で申し訳ありませんでした。

麻矢さんに恥をかかせてしまったみたいで…

私一人に首を宣告するためにお集まりいただきまして、ありがとうございます。


ボーっとしたまま心の中でお礼を言い、ドアのところで深々とお辞儀をした。

「ぶっ!!」

麻矢が吹き出した。


「…ちゃん?彩香ちゃん?どうしたんだ?」 

なんか遠くから相楽さんの声がぁぁぁ。

「…え?あ、はいはい…」

「彩香、何ボーっとしてんだよ!またフリーズ?早く座れよ」

悠に突っつかれた。

気づかなかった、なんであんたも居るのよ…。



「彩香ちゃん、部屋探してるんだろ?」  吉田社長に聞かれた。

「へ?あっ、は、はい、そうです!!激安物件!!」

空元気よく言った。

はぁ…。


「で、あったの?」

「いまのところ…まだです」 

「で、ものは相談だが------」

吉田社長から話を聞かされた。



だからみんな揃っていたのかぁ。

首じゃなくてホッとした。

と、いうか家賃無しの部屋が見つかったことはこの上ない喜びだが、事務所の仕事兼住み込み家政婦業がプラスされることに即答できなかった。

悠のお世話係…あれが、この先24時間ずっと続くと思うと立眩みが…。

でも家賃は要らない。

悩みどころ満載な話だよなぁ。


どうしよう。



私が真剣に悩んでいる最中。

「いやぁ~彩香ちゃん!いい物件見つかってよかったなぁ」

「ほ~んとよね。通勤時間なんて0分よ!お徳よね~交通費要らないし」

「ああ~ん、これで悠の世話しなくてすむわ~心おきなくダーリンの所にお泊りできるぅ」

「と、いうわけだ!彩香ちゃん!悠のことも事務所の仕事もよろしく頼むよ。で、いつ

 引越ししてくる?荷物とか運ぶ業者はこっちが用意しよう」

「あっ、来週の土曜日なんてどうかしら?彩香ちゃんお休みあげるわよ」

「そうね、早い方がいいわよね?私も業者に頼んでお部屋掃除しとくわ」


「……へ?」


ええーーーー!!

私の意思は!

意見は!

まだ返事してない!

き、決めてないですが!!

私の声は届かない。



決定!!と、社長の一声で、悠と私は、とっとと社長室を追い出された。

残りの四人はまだ社長室でなんだか盛り上がっていた。


「悠…なんでこんな話になっちゃったの?」

「え?おまえが部屋探してるって…」

「うん、探してる」

「それに家賃高いだろ?」

「……うん」

「じゃ、いいじゃん。麻矢んとこで。家賃要らないし」

「でも、完全家政婦が条件だよ…(それも、あんたの…)」 

悠をチラッと見た。


「な、なんか文句あんのかよ。あっ、運転手もやれよな!」

「あ”あ”?!」

「じゃ!そーゆーことで!」 

悠はそう言うと、メンバーのいる応接室に入っていった。


そして、次の土曜日、私は少しの家具とダンボール10箱くらいの荷物と共に麻矢と悠の

住む4階に引っ越した。




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