(25)最低最悪な悠…
CM出演のギャラを頂いた。
思った以上に封筒にお札が入っていて、私の顔は緩んでいる。
だけど、もう、ああいう仕事はしたくない。
私には、裏方が似合っている。
今日も頑張って事務所でお茶酌みに励んでいた。
タレント部の来客にお茶を出し、音楽部に戻ってくると加山に呼ばれた。
「彩ちゃん、ちょっとお仕事頼まれてくれる?麻矢の部屋何度も行ってるから
悠の部屋わかるでしょ?悠を起こして仕度させて、LTV局に車で送って行って!
運転……大丈夫でしょ?」
「悠?電話は?麻矢さん家にいないんですか?」
「悠の携帯はつながるんだけど、まだ寝てるみたいで起きないのよ。麻矢は昨日から
お泊りみたいで家にいないの」
「ふ~ん、わかりました」
「えーっと、あと!悠の部屋入ってもびっくりしないように…」
「なんで?なにかびっくりすることでもあるんですか?」
「ん~まぁ、大したことではないので、テキトーに起こして」
私は麻矢の家のカギを受け取り4階へ行った。
悠の部屋には入ったことはないが、場所は知っている。
リビングを挟んで麻矢の部屋とは反対側にある。
あれ?恋人同士なのに部屋は別々なんだ…今更ながら思った。
まぁね、仕事柄すれ違いが多いからなんだろうけど。
ドアをノックしようとして、
―――悠の部屋に入ってもびっくりしないように…
加山の言葉を思い出した。
ものすごく寝相が悪いとか?
ものすごく汚いとか?げっ!虫とかいたらどうしよう…
あっ、スッポンポンで寝てる…とか?
思わず顔が紅潮した。
変な想像をしてしまった…欲求不満か、私は。
頭をブンブンと振り、ドアをノックした。
返事がない。
電話しても起きないんだもんね、ドアのノックくらいで目を覚ますわけがない。
私はもう一度だけノックし、ドアを開けた。
「…………ギ、ギ、ギヤヤヤヤャャャャーーーーーーーー」
あ、ありえない……
ス、ス、スッポンポンどころではない。
私の叫び声が余程のものだったのか、悠が飛び起きた。
そして、悠の隣で眠っていた裸の女も、起き上がった。
なんで…なんで…どうして悠の横には、麻矢じゃない女がいるの?!
それも、はだ、はだ…か…
どうして…?悠は浮気なんてしないと思っていたのに。
私はドアノブを握ったまま固まっていた。
心臓は最高速度でカウントを打っている。
「うわぁーーー。なんで彩香がいんだよ!!」
悠が私の姿に驚いてベッドから出た。
パ、パ、パンツは…一応、穿いている……のね。
「おい、おい、おーい!彩香?もしかしてフリーズ中?」
悠に顔を軽くパンパンと叩かれ、意識が蘇った。
「あ、あ、あーーーーー!」
「な、なんだよ。何度もびっくりさせやがって…」
「あんたね!!あんた!!麻矢さんがいるにも関わらず、よりによってこの部屋で!
女、女と!!」
私の怒りは活発に動き始めていた。
一発お見舞いしたかったが、これからテレビの仕事が入っていることに気が付き、
顔は止めて頭を叩いた。
「痛てーだろ!何すんだよ!」
「うわぁ~サイテー、悠サイテー!!また麻矢さん泣かすつもりなの?!路頭に迷って
野垂れ死になりたいわけ?!麻矢さんがいないのをいいことに女連れ込むなんて。
私頭クラクラしてきた!!こんな男だとは思わなかった!ハァハァハァ…」
酸欠になりながら、もう一度悠の頭を叩いた。
「だから痛てーつってだろう!なんで俺がおまえに叩かれなきゃなんねーんだよ!」
「今のは麻矢さんの分よ!!」
「はぁ?彩香、さっきから麻矢麻矢って麻矢がなんなんだよ、ぁあ?」
こ、この期に及んでとぼけたことを!!
三度頭を叩こうとしたら手を掴まれた。
「叩くなよ!痛いから…意味わかんないし…俺が女と寝ててなにが悪いんだよ。
麻矢と何の関係があるんだよ。説明しろよ、彩香」
「ひえぇ~~~、本当サイテーだわ…悠…もうがっかりだわよ、私」
おとぼけにもほどがある。
真面目に一度海の底に沈めてもらったほうが、いいのではないだろうか。
私の気持ちの方が、深い海に沈んでしまい、悠を信じられなくなり気力がなくなった。
「手…痛い」
悠に掴まれていた手首を放してもらい、早く支度をして事務所に来るように伝え、
半べその私は、悠の部屋を出て、2階に戻る階段の途中で座りこんだ。
麻矢の気持ちがわかるから、恋人に浮気されるという惨めな気持ちがわかるから…
男ってなんであーゆー生き物なの?!
大切な人って一人だけじゃダメなの?
なんだか涙が出てきた。
階段のところで一人で泣いていた。