(22)嵐の前の…不安
食事を終えて店の前で解散になり、相楽と加山に挨拶し、
彩香に運転してもらって帰ると言うと、加山の顔色が一瞬変わった…ことなど、
俺は気づかず、彩香と駐車場に行った。
「俺の車これ。汚すんじゃねーぞ、大事な車なんだから」
って、いうか、この車、女に運転なんてさせたことがない…
って、いうか、女乗せるの初めてだ。
俺が彩香にキーを渡したが、なぜか彩香は固まっている。
なぜだ。
*****************************
う、うそ…。
私は、悠の車の前で固まった。
キーを渡されたが、握り締めたまま、目の前が真っ暗になった。
…マジ…ですか!!
ツンベイ車の2ドアタイプ。クーペカブリオレ。
ツンベイ車…聞いてない…よ。こんなすんばらしい車運転したことないよ。
ついでに左ハンドル?!
震えてきた…どうしよう。
悠を見た。
「早くロック外せよ。どうした?」
……ロ、ロック、ロック。
ピッ!
ロ、ロック、か、解除、か、完了。
「ブツブツ言ってないで、早く乗れば?」
すでに助手席でスタンバイ済みの悠にせかされる。
私は運転席に乗り込み、震える手で、キーを回しエンジンをかけた。
エ、エンジン、完了。
座席に深く座り、シートベルトをし、ハンドルに手を置くと、足も手も伸びきっていた。
悠は身長もあるが、どれだけだらけた運転の仕方をしているのかと、思うほど、
シートからハンドルが離れている。
「シート位置、合わせれば?」
「は、はい…わかりましたです…」
緊張のあまり、日本語がおかしくなってしまった。
えーと、シートをもっと…前に…
あれ?レバーどこだ?ない?
足元をゴソゴソ探していると、悠に言われた。
「…あのさぁ、そこの横のスイッチ…シート調節。そのスイッチ押せばいいから」
「えっ?スイッチ?あぁ、これね、これ」
今の車って、スイッチなのね…お父ちゃんが乗ってる軽トラと比べちゃいけないのね。
スイッチ・オーーーーン。
私は、ジーーーーーーーーーーと言う音と共に仰向けになった。
この車の天井ってこんなんなんですね…天井なのに、立派な作り。
うっ、スイッチを間違えたみたいです…泣きたい。
私はリスライニングをして、一人天井を見つめ固まった。
「…… (あぁ、なぜリスライニングしちゃったわけ?なんか泣いてるし)
あのさぁ、俺の車で遊ぶの止めてくれる?」
悠に呆れられた。
起き上がろうとしたら、シートベルトで体が固定され、無理だった。
見かねた悠が、リスライニングを戻してくれた。
ついでにシート位置も合わせてもらった。
ふぅ…すでに疲れが出てきた…もぅ、だめだ…
私は、シートを合わせ準備が出来た時点で、すでに半分意識はない。
「あの~このような車、初めて運転するんですが…ひだ、ひだりハンドル…とか?」
ちょっと告白してみた。
「普通のと変わらないよ」
「へぇ、そう、でしか…」
日本語がどんどん変になる。
「 (言葉が…変なんですが) 運転してんだろ?事務所でも」
「へぃ… 一度だけ…その後は加山さんに…キーを取り上げられて…死にたくないと……
親にも…昔言われたです…死にたくないと」
私の声はものすごく小さかったが、ちゃんと告白した。
「何ブツブツ言ってんだよ。早く車出せよ、俺、眠いし」
「は、はい…生命保険とか…入ってますよ…ね?」
これまた小さい声で聞いた。
「今、何か言った?早く帰ろう?」
「いえ、何も…で、では出発させていただきますです」
私は思い切り、アクセルを踏んだ。
気持ち的には、なるようになれ!と。