(19)CM出演?!天使の誘惑
俺の横に、天使役のモデルが横にきた。
顔合わせの時も、ほとんど顔なんて見ていなかったし興味もない。
目も合わせず、軽く会釈だけしておいた。
どこかで聞き覚えのある声で挨拶をされた。
今の声は…天使役の子…?
彩香!!!
ボーっと、彩香を見ていたら、相楽に言われた。
「悠、こういうことだ!」
相楽の説明簡略しすぎる言葉に、わけが分からなくなった。
なんで、なんで彩香がここにいるんだよ…
瞳孔が開きっぱなしになっていた。
「彩香くんは、こういうの初めてだろうけど、緊張しなくていいから。
NG出しても大丈夫だからね。ヨロシク~」
「はい、頑張ります!肉のために!」
肉…?
肉って、何の話だ?
ちゃんとした理由も教えてもらえず、俺は撮影に入った。
撮影は絵コンテ通りには撮らず、各シーンをバラバラに撮って行くため、
「黒い衣装から白い衣装になった4人の部分」を先に撮った。
CMにはセリフがないのでタジオにはずっとBGMが流れている。
リハ・映像チェックを数回繰り返し、本番のOKが出た。
「次、櫻田さん、お願いします」
彩香がスタッフに呼ばれ、背中に大きな白い羽をつけて、俺の前に来た。
「これ、重い…」
「えっ?」
「羽、重い。ひっくり返りそう~」
彩香は嬉しそうな顔で言っているが、俺の心臓は動きが速くなる一方だ。
「悠くん、彩香くんの肩に腕をまわして、引き寄せて。
彩香くんも悠くんの後ろに手。それから首筋あたりに顔つけて。誠くんは…」
一人一人にポーズと動きの指示が出る。
彩香が俺の腕の中に納まった。
今日は高いヒールを履かされているのか、彩香の目線が俺の口元あたりにきた。
心臓の振動音が、伝わるのではないかと、余計にドキドキになった。
ふと横を見ると、キヨが首を横に倒して、にっこりと俺に微笑んでいる。
あまりにも不気味だったので顔を反対側に向けた。
亮がズボンのポケットに手を入れたポーズのまま、俺を見て、ニヤリと笑った。
……不気味だ。
「何、頭フラフラ動かしてるの?落ち着きないわね~、ったく」
彩香に怒られた。
「じゃ!みなさん、そのポーズから始めますのでヨロシク~。
あっ、悠くん、もっとこうギューッとギューーーっと彩香くんの肩を
ギューっとね、ヨロシク」
監督、もうそれ以上ギューとか言わなくていいです。
彩香の背中の羽は今閉じている。徐々に開いて最後に開ききる。
リモコンを操っているのはプロデューサーだ。
待ち時間の時プロデューサーがリモコンをいじくって楽しそうに
遊んでいた。
「本番でも自分がやる!」 と言い出し練習をしていた。
「彩香くん~肩と首、リラックスでヨロシク~」
この監督、(ヨロシク~)が口癖だ。
「誠くん~視線こっち、ヨロシク~」
「ぶっ!」
彩香がいきなり噴き出し、肩を揺らした。
監督の「ヨロシク~」がツボに入ったようだ。
こ、こいつは緊張というものをしていないのか!
「痛ッ…」
俺は彩香の首の肉をつねった。
「笑うなよ!真面目にやれ!」
耳元に小声で言った。
リハと本番を繰り返し、このシーンも無事終了した。
次のシーンから俺たちは、黒の衣装にチェンジし、その間に、
彩香一人のシーンの撮影を行なった。
***************************
私一人の顔アップ・シーンの撮影に入った。
耐えられるのかな…私の顔…私のアップ。
「顔がNGです!ヨロシク~」 なんて言われたらどうしよう。
一人になり、だんだんと不安になっていった。
リハをしながら素人の私に、丁寧に指示を出す監督。
監督の言われるがままに、表情を作った。
「ん~~すばらしいね~いいよ、彩香ちゃんその顔!」
いつの間にか(ちゃん)付けになっていた。
緊張を解いてくれているのかもしれない。
私は、場にだんだん慣れてきて、ライトで少しまぶしいが、余裕で
周りの人の顔が目に入るようになっていた。
加山と相楽の心配そうな顔も、見えた。
着替え終わったゴーディオンのメンバーもいる。
本番になるが、監督は褒めるわりには中々OKを出ず、悲しくなって、
ちょっとゴーディオンの方を見た。
「はい!!!!OK!!!今の視線いただきました~よろしく!」
……そうですか、OKですか…
なんか、気が抜けた。
すぐに次のシーンに入るため、私はそのまま同じ場所にいた。
あっ…次は悠とのからみだ。
か、からみ…からみ…
い、いやらしい言葉だ。
何を考えている自分!!少し反省しよう。
メイクさんが来て、パタパタと粉を叩いて化粧直しをしてくれて、
スタイリストさんが衣装を整えてくれた。
ここに立ってみて初めてわかった。
現場の人たちは忙しそうに動きまわっている。
悠たちスポットライトがあたる人間を、この人たちが支えているんだぁ。
悠たちもそれに応えようと、いつもがんばっている。
……私は、事務所で…お茶酌みしかしていない…
あっ、また落ち込んできた…