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(13)二夜連続お世話になります!

午後6時過ぎ、コンビニに夕飯でも買いに行こうかと思っているところに

麻矢から連絡が来た。

なんだかものすごく珍しいことを言われ、耳を疑った。


「悠、ごちそうしてあげるから店にいらっしゃい」


あいつが「テオーリア」をオープンさせて3年になるが、あの店でごちそうになったのは、

俺の家族を連れて行った時と、麻矢が大穴狙いの万馬券を中てた時の2度だけだ。

何度も行ってはいるが、一円たりともオマケということをしてもらったことはない。

いつも伝票通りの支払額を請求される。その上、チップを要求される。

そんな麻矢が『ご馳走する』という。

地球滅亡か宇宙破裂か、ここで断るともっと恐ろしいことがあるような気がして、

人類の未来のため、俺は素直に従った。


8時を回った頃、店に着いた。

平日だというのに店の前には、いつものように席待ちの客が並んでいる。

はぁ~、楽園だよね、毎度のことながら客層は女ばかりだ。

俺もここでバイトでもしようかなぁ~。

席待ちの人たちの視線を感じつつ階段を下り、顔見知りのスタッフに挨拶をした。

スタッフに「麻矢は個室の『ブラボー』で待っている」と言われ、部屋に向かった。


ここの個室名はどれもみんな変な名が、つけられている。

『万歳』『イェ-イ』『ブイブイ』『どすこい』

などなど他の個室もわけのわからない名だ。

麻矢が自分で考えたネーミングだが、店の雰囲気とか全く無視して意味不明だ。


俺は『ブラボー』のドアをノックした。

中から麻矢の声がし、ドアを開けた。


「あら、いらっしゃい、待ってたわ」

「……さやか?」

来てたんだ、彩香。


麻矢の向かいに座っていた彩香の姿を見て、思わず鼻で笑ってしまった。

俺が来る事は知らされていなかったのか、彩香は鶏の腿肉にカブりついたまま、

驚いた目をして俺の方を向いていた。

「悠も呼んだのよ。悠ったら昨日シメジに迷惑かけちゃったみたいだし~」

この『迷惑』というのは彩香の携帯に勝手に出たことらしい。


彩香は膨らんだ右頬をモグモグさせ、急いでチキンを飲み込んで立ち上がり、

腰に手をあて俺を睨み、すごい勢いで言った。

「あなたね!!昨日!孝志になに言ったの?!」

「…何って?なにがぁ?ははっ~」 

彩香の真剣な姿に思わず笑いが出た。

「笑い事じゃないでしょ!!孝志が!孝志があなたのこと私の男だって

 勘違いしてるんですけど!!どういうことよ!」

彼女の迫力に麻矢もあっけにとられ、俺たちを見るだけだった。


「ぁあ??あぁ、なんか電話で話しててムカついたから、ちょっと嘘ついた。

 俺が彩香の新しい彼氏だから二度と電話して来るなって、言っただけ」

「なんでそんなこと言うのよ!!」

「なんか問題でもあんのかよ。彩香に男がいることになんか問題あんの?」

「え?んーーーん?」

彩香は、首をコクッと横に倒し少し考えているようだった。


「だって、もう別れたんだろ?そいつと」

「ぁあ?うん、まぁそうだけど…」  急に小さい声になった。

「じゃ、いいじゃん。どうせ嘘なんだから、俺が彩香の男なんてこと…」

「…ん、そうよね、そうだわ。孝志とは別れたんだからいいのよね、別に嘘ついても」 

彩香は一人なんとなく納得して、うなずいて椅子に座りなおした。


「ふふふ~、シメジのお怒りはもう収まったのかしら?」

麻矢が楽しそうな顔でシメジのグラスにワインを注ぎ、彩香はそのワインを

グビグビと飲み干し、コクコクと首を縦に振った。

きのこヘアが軽く揺れる。

俺の口元は少し緩んでいた。

「ほらほら、悠もそんなところに立っていないで座りなさい」

麻矢に急かされ腰を下ろした。


食事をしながら3人で話していると麻矢がスタッフに呼ばれ、席を外した。


「聞いていいかなぁ。彩香ってさぁ」

「ちょっと!!悠、私のこと、なに呼び捨てしてんのよ!」

今更何を言っているんだ…鈍いやつだなぁ。


「おまえだって俺のこと呼び捨てだろ?」

「……あのね、年上に向って上から目線と、呼び捨ては止めなさい!って言っているの!」

「年上…?彩香、何歳なの?」

「……じょ、女性に年齢を聞くなんて、ったく、日本の男は…」

「ふっ、日本の男は…って、彩香外国育ち?ん?」

「ち、違うけど……。とにかく!私は28歳なんだから『さん』付けにしなさいよね」


えっ?……うそだろ…?28?

俺は眉間にしわを寄せて、彩香をマジマジと見た。

「な、なによ…なに見てんのよ。気持ち悪いわね…」

彩香の眉間にもしわが寄り、俺を怪訝な顔で見た。


「おまえ…本当に28なの?」

「そ、そうよ、それがどうしたのよ…。ああーーー!!わかった!

 あーー!わかっちゃったもんね!28にもなって男に振られてかわいそうな女だとでも

 思ってんでしょ!」

「そんなこと思ってねーよ。なんでそーなるんだよ」

「うわ~~、ぜったい思ってる!あんたのその眉間のしわが物語ってる!」

そう言って彩香は、人差し指を俺の眉間にグリグリと押し付けた。

「……痛いし…」


酔っ払ってんのかよ…おっもしれーな、こいつ。

この勝手な思い込み、本気で怒り出しちゃうし、どこをどう見てもガキじゃん。

頭の中なんて2歳児か…おまえは。


「あのさぁ、そんな喋り方してるから大人の女に見えないんじゃないの?」

「へっ?」

「28に見えないって言ってんの!俺、24歳だけど彩香のこと年下だと思ってたし。

 社会人っていうから22歳くらいと思ってた。下手すりゃ高校卒業して

 すぐ就職しました~って感じ?」

高校卒業うんぬんは、少し大袈裟に言ってみた。

「え?え~~?」

若く見えると言われたのが嬉しいのか、急に大人しくなりニタァ~~と笑い、

「テヘッ」って感じに顔を傾けた。

あ~あ、本当に28歳かよ。よくここまでコロコロと心理状態が変われるよなぁ。


「あっ、で、悠の聞きたいことって何?」

なんか、ご機嫌な声になってる…


「え、あぁ、彩香、なんで麻矢に対して敬語なの?俺と話すときの態度と全然違うから…

 まぁ、俺は年下だからってのは今わかったけど、だったら麻矢にも…………って、

 もしかして…彩香、麻矢のこと自分より年上と思ってる?」

「え?!」

「麻矢、俺より一つ上なだけだよ。25歳。彩香より3つ年下。30超えてるとか思ってた?」

彩香がこめかみに両手をあて、眉間にしわを寄せ俺を見たまま、コクンコクンと

うなずいた。


麻矢の年齢に少しショックだったのか、俺を見たまま動かなくなった。


「きっと麻矢怒るだろうなぁ~。25歳なのに30超えに見られちゃって、

 それも年上の女にさぁ。麻矢、年齢とか若さに敏感だからなぁ。それにあいつのBACK

 恐~んだよなぁ。麻矢を怒らせた何人かの人間は、海に沈められたって噂もあるし。

 そういえば先週も麻矢に逆らったここのスタッフが一人急にいなくなったんだよね~」


麻矢がそんなことくらいでは怒るはずないし、海に沈められた話なんか信じるわけがないと

思い、俺は笑いを堪え真顔で彩香をからかった。

彩香は麻矢の恐さを知っているのか、完璧に動かなくなった。

もしかして…信じちゃった?あはっ。


タイミング良く戻ってきた麻矢の顔を見るなり、彩香はワイングラスを手に取り、

一気飲みし、自分でナミナミと注ぎ足し、また一気をし、また注ぎ足そうとした。


「おまえ飲み過ぎだよ、止めとけよ。うそだから、さっきの話うそだから!!」

ワインのビンを掴んだ彩香の手を掴むと、怯えた目から涙がこぼれていた。

「死ぬ…?私…死…ぬぅぅぅぅぅ…海…沈む…」

「死なないから、大丈夫だよ、彩香は死なねーから。海に沈みそうになったら

 俺が助けに行くから!!」

俺の方があせり始め、変なことを口走ってしまっている。

すでに海の底にいる自分を想像しているらしい彩香は、麻矢本人を見た恐怖心が

酒の酔いを早くしたのかそのまま気を失った。


事の成り行きを説明した俺は、麻矢から大目玉を喰らい、店が終わっても彩香は目を

覚まさず、結局家まで連れて帰り、二日連続で麻矢の部屋でご就寝となった。



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