番外「誠くん」2
しばらくの間、新曲のレコーディングで忙しかったけど、合間を見つけて、聡美にプロポーズするための指輪をオーダーしに行き、受け取りの日、聡美と会うために連絡を入れた。
が、何度携帯を掛けても繋がらない。
電源が切られている。
会社の番号なんてわからないし、実家の番号もわからない。
教えてもらっていない……
聡美と連絡が取れなくなることが、こんなにも不安なことなのかと、オレは相当あせった。
女遊びはお盛んだけど、本当にオレには、あいつだけなんだと、思い知らされた。
もしかして、一人で子供産んで、育てるんじゃ……
オレに迷惑はかけないって言っていた。
冗談じゃないよ、なにが迷惑なんだよ!
聡美と別れるのなんてイヤだ!
オレと聡美の赤ちゃんなのに、父無し子になんてしたくない!!!
悠と彩香ちゃんのことが頭をよぎる。
彩香ちゃんがいなくなったときの悠は、ひどかった。
すんげーかわいそうだった。
だけど、まわりの人間はどうすることもできず、悠自身が立ち直るまで待つしかなかった。
今のオレには、悠の気持がよくわかる。
オレは、聡美のアパートに向かっていた。
タクシーの運ちゃんに3000円を渡し、「釣りはいらねー」と言い、降りようとしたら、「足りない」と言われた。
それくらい、あせっている。
聡美のアパートの階段をあがり、ドアを叩いたけど、なんの返事もなく、窓から明かりも漏れていない。
なんで、オレ、カギ持ってねーんだ?
オレは聡美に合鍵を渡してあるけど、オレは聡美のアパートの合鍵を貰っていない。
絶対くれなかった。
どうして…?
こうなることが、わかっていたからか!?
オレが遊びで聡美と付き合っているとでも思っているのか!
もう部屋の中には、聡美の荷物なんて何にも無くて…
綺麗な新しい畳が張り替えられていて……
あっ、もしかしたら、オレへの置手紙があるかもしれない!
ドアをガチャガチャ壊れそうなくらい動かしたけど、ぼろいアパートの割には、しっかりしているドアのようで、うんともすんとも言わなかった。
もぅ…ダメだ、おしまいだぁ……
ドアの前で、膝を抱えて、座り込んだ。
涙って、本当に頬を伝うんだなぁ。
しょっぱい…
うっ…
泣きながら、聡美と初めて出会った日からのことを順序よく、走馬灯のように思い返していた。
時間がどれくらい経ったかもわからない。
体育座りのまま顔を伏せていた。