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カエルの宝物

作者: のじか

葉っぱのつのった

フカフカの土のすき間を

じわりじわりとしたたるしずくが

ちょろりちょろりと流れでて

たくさん集まり

いつしかまあ

それなりの川を作りだし

このうっそうとしげる森の中を

さらりさらりと通っている。


いつからそうあるのか、

その川に住むカエルは

さてさっぱりと知らない。


カエルは

川のことは知らないが

この小さな石コロのことは

よく知っている。


石コロはまっしろで

たくさんのヒビが入り

よくよく見つめていると

七色に光るのだ。


それはそれはとても綺麗に。


川が徐々にえぐって出来た

ほのぐらく静かなくぼみを

カエルは住処にしていたが、

そのいちばん奥まったところに

石コロを隠して

ひそかに時折見つめては

丁寧に磨きながら

その七色の光りを

自分だけで楽しんでいた。


晴れの日でも冷たく陰るこの川で

石コロは

カエルの大事な大事な宝物。


あるとき雨がしばらく降ると

黒い森はザワザワ騒ぎ出し

川はぞろりと水が増し


ドドドドッと

色々なものを押し流した。


細かい石

そこそこの石

緑の葉っぱ

茶色い葉っぱ

短い枝

長い枝

まんまるどんぐり

とんがりどんぐり


色々なものが

ぶつかり溶けて

押し流されていく。


カエルは木の根っこに

しがみつき

うんしょうんしょと

耐えていたが


カエルの住処は

そこが出来たときのように

ぐいぐいと川にえぐられて


「あっ」


とカエルが目をやると

ボロリと土が剥がれ流され

キラリと光る

石コロが

色々なものと一緒に

サーッと流されてしまった。


カエルはすぐに

迷うことなく

手を離し

根っこから飛び出すと

石コロを追って

ドドドドッという

川の流れに身を任せた。


だって石コロの他に

カエルは何にも

持っていないから。


石をよけたり

葉っぱに乗ったり

枝を漕いだり

どんぐりに転がされたり


そんなことをしながら

キラリキラリと

石コロの光りを追って

カエルはどうにか

にごる流れの中で

石コロを捕まえると

しっかりと両手で

包み込む。


ひそかに七色の光が

指の隙間から漏れだして

カエルは暖かい気持ちに

なりながら

それをしっかり握りしめ

そのまま

どんどん

石コロと一緒に流されていく。


川はいつの間にか

カエルが見たことも無いような

大きな岩があちこちにある

広い川になり

ぐるぐると渦巻いたり

分かれてはぶつかり合いながら

下へ下へと流れていく。


カエルは

どんどん どんどん

石コロと一緒に流されていく。


すると川は

ますます広い川になり

カエルには

もうどれほど広いかわからないほど

広い川になり

あたりはとても暖かく

明るくなってきた。


気づくと流れは

ゆるりと優しくなり

カエルはふわりと

なめらかな石に足をつけ

ようやく止まった。


石コロを握りしめたまま

そーっと顔を上げ

よくよく辺りを見回すと

そこは

どこもかしこも

白くキラリキラリと

光っていた。


上をみれば

そこに黒い森は無く

ユラユラと真っ青な空が透けて


下をみれば

冷たい土は無く

やわらかそうなまんまるの

白い石ばかりが

コロコロとあり

太陽がそれを照らしている。


その間を青い魚がそよそよと踊り

カニはいそがしく歩き回り

緑色の草が息をしている。


カエルはとてもとても驚いて

両手をゆっくり開くと

恐る恐る

宝物の石コロを見た。


それは確かに

カエルの大事な石コロだったが

今やそれは

ここにあるどの石よりも

暗い灰色で

ゴツゴツしており

どんなに目をこらしても

七色に光ることはなかった。


それに気づいたカエルの手が

ふるふる震えると

石コロはポロリと落ちて

そのままどこかに消えてしまった。


消えてしまった先を

カエルはしばらく見つめたが

やはりもうカエルには

その石コロが見えなくて

カエルの目からは

静かに涙が流れた。


カエルは確かに

涙を流したが

その涙は

こぼれるや否や

たちまち

川の流れになって

やっぱり消えた。


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