妹によると、僕に美少女な妖精さんが抱き着いてるらしいんだけど、僕には残念ながら見えない
ふぅ、疲れた。
ただいま帰ってきましたよ。
時刻は夜の七時半。
最終下校時刻の七時ぴったりに高校を出て、そこから自転車で坂を降りてから登って、そして家に着いた時刻である。
「お兄ちゃんおかえり!」
「あ、ただいま」
「夕ご飯できてるよ」
「あ、ありがとう」
「今日もお盆いるの?」
「いる」
お盆がいるか入らないかの会話になんの意味があるかというと、それによってリビングで食べるか食べないかの違いがある。
僕は文化祭実行委員会の仕事の山場をむかえていて、そしてだから夕ご飯を食べながら書類を書いたりきた連絡の対応をしたりしなきゃいけなくて、ほんと忙しいのだ。
僕がお盆に食事を乗せて二階にあがろうとすると、妹が驚いたようにこちらを見ていた。
「お兄ちゃん、誰? 隣にいるの」
「え?」
「なんか白い妖精みたいな可愛い女の子がお兄ちゃんに抱きついてるけど」
「うそ? 見えないけど」
「私には見えるけど。ていうか、抱きつきすぎ! ちょっと離れなさいって、すごい密着してるし」
妹は僕のところに来て、何者かを引き剥がそうとしている。
「そんなに力強く僕にひっついてるのか」
「うん、感触とかないの?」
「感じないけど」
ちょっと感じたかったかもしれない。妖精の感触。
「うー、離れないよ……」
「そうか、まあ僕に実害はないからいいよ、そのままで」
「うん……でも、なんか、私から見たら妖精さんとお兄ちゃんは楽しそうにしてるのに、私はリビングで一人でご飯って、なんか寂しいなあ……」
妹はすこし目を逸らして、そう言った。
「わ、わかった。それなら一緒に食べようか今日は、なんとかなるだろ夕食の時間まで仕事しなくても」
僕はお盆ごとリビングの机に置いて、そして食器をテーブルの上に並べ直した。
「やった! じゃあ一緒に食べようね!」
妹はすごく嬉しそうで、だからもっと一緒に食べとけばよかったな、と思った。
そしてそれから食べて、食べ終わったら歯磨きをしたりして、さていよいよ文化祭実行委員モードになんないとなと思っていたところで、妹がまた僕を見つめて言った。
「お兄ちゃん、なんでお膝に妖精さん座らせてるの?」
「え、座らせたつもりはないんだけど」
「でも座ってるもん、すごく妖精さん嬉しそうにしてて、なんかずるい」
「そう見えてるのか……」
「うん、しかも居心地がいいのか寝そうになってるよ」
「それはすごいな」
「ねえ……お兄ちゃん、私、羨ましくなっちゃうよ」
「?」
「だってね、妖精さんはお兄ちゃんの膝の上に座ってにこにこしてるのに、わたしは、ひとりなんだよ?」
「……わかったよ。たまには膝くる?」
「う、うん。あ。妖精さんがゆずってくれた、ありがと」
妹はそうつぶやいて、僕の膝の上に座った。
もう妹も大きいので前が見えにくくなる。
「今日は学校でなんか面白いことあった?」
僕はきいてみた。
「え、あったよあったよ。あのね、あ、妖精さんも一緒に聞いてくれるの? で、それでね……」
妹は僕と妖精さんに、楽しそうに話し始めた。
そうだよな。大丈夫だ。文化祭実行委員会の仕事なんて、授業中に内職すればなんとかなる。
やっぱり、僕は、妖精さんが見えてしまっている妹と一緒に時間を過ごすべきなんだろう。
違うな。
べきとかじゃなくて、僕がそうしたいんだ。
僕は妹の頭をすこしだけ撫でてみた。
「お兄ちゃん……?」
「あ、いや、これからすこし忙しくなくなるからな、妖精はな、多分いなくなると思うんだよな」
妹は笑って言った。
「そうだね。いつのまにかどこかに行っちゃう気がする、妖精さん」
お読みいただきありがとうございます。
変な作戦を立てる妹とだまされたふりがうまい兄の話でした。
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