【コメディー】不正はなかった
「あぁ~今のは惜しい! もうちょっと掬うのが早けりゃなぁ~」
俺の失敗に、屋台のおっちゃんがニヤニヤ顔を浮かべる。ぐぅぅ腹立つ!
祭りといえば金魚すくい。そんな軽い気持ちで始めたのだが……気づけばドツボに嵌まっていた。
「おいおっちゃん! このポイ、なんか細工でもしてんじゃねえか?」
「人聞きが悪いなぁ。んなこと俺ぁしてねーよ」
なんておっちゃんは言うが、果たしてどこまで信用できるか。
祭りの屋台での不正なんてよく聞く話だろう。初めから一等のないクジとか、釘で固定された射的の的とかな。
今のもきっと、俺の腕前とは関係なく――
「へたくそ」
と、背後から声が聞こえた。
クラスメイトの佐鳥だ。おまえも祭りに来ていたのか。
恋人や友達の同伴もなく、たった一人で。……おまえは俺か。
「ポイ捌きがまるでなってない。それじゃどんなノロマな金魚でも掬えっこないわ」
「んなこと言って、おまえはできるのか?」
「アンタと比べれば多少はね」
澄ました顔で財布から百円を取り出し、ポイとお椀を受け取る佐鳥。
手本を見せる気らしい。
「いい? まずポイには裏表があるの。和紙の貼ってある方が表面ね。で、金魚は後退できないから、前から狙うのが基本。こうやって斜めに入れて…………あ」
とか、ドヤ顔で解説したくせに、あっさり金魚にポイを破られていた。
「……いや、ちが……も、もう一回!」
佐鳥、顔真っ赤だぞ。
おっちゃんのニヤニヤは止まらない。百円とポイを再度交換し、佐鳥が水槽を睨む。
「くっ、この……! や、やった! どう? 見たで――あぁーっ!?」
リベンジ成功。かと思いきや、金魚はポイから華麗に脱走してしまった。
……体をバネのように捻るアクロバットな挙動によって。
思えばここでムキになったのがよくなかった。
「次は俺だ! 今度こそ本気で……うぇえ!?」
は、背面跳び回避!? イルカショーみたいな動きだったぞ!?
「あっちの奴ならいけるわ! ほら、そーっと……えぇ!?」
コイツ……自らポイに突っ込んで紙を突き破った、だと!?
「まだだ! こうなったら逆に勢いよく……と、飛んだぁっ!?」
トビウオかよ! もはやおまえ金魚じゃねえだろ!
「悪いな、坊主に嬢ちゃん」
苦戦する俺達に、おっちゃんは満面のドヤ顔で胸を張って、告げる。
「コイツらは普通の金魚とは格が違う。――よく訓練された金魚だ!」
いや訓練で育つってレベルじゃねえ!
その後、俺と佐鳥が無一文になるまで、そう長くはかからなかった。
【お題:脱走、お祭り、にやにや テーマ:ドタバタの連戦連敗 文字数:1000字】