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【青春】ささいなきっかけ

 下校中、公園の片隅からギターの旋律が流れてきた。

 騒音にならないようひっそりと響く音色に、自然と足が止まる。


 下手くそ。初心者が見栄を張ったような演奏だった。

 時々混じる不協和音に思わず顔をしかめる。


「何してるの、こんな所で?」


 私が声をかけると、演奏者はビクリと肩を跳ねさせる。

 鈴村蒼汰――かつての幼馴染はひどく狼狽えていた。


「っ、陽葵(ひまり)!? どうしてここに!?」

「そりゃ帰り道なんだから、ここも通るでしょ」


 でも無理はないか。

 お互い会話なんて、何年もご無沙汰なのだから。


「……練習だよ」

「え?」

「だから、練習だって! ギター部の!」

「ふぅん」


 正直、興味は湧かなかった。

 いくら家が近所でも、小学生の頃毎日一緒に遊んでいても、交流がなくなればもう赤の他人だ。

 他人がどんな部活に入ろうがどうだっていい。


「……用がないならもう帰れよ。ハズいだろ」


 そっぽを向いた彼にこれ以上構うつもりはない。私も黙って踵を返す。


 背中越しに再開するデタラメな旋律。

 自転車を押して、さっさと帰ろうとして。

 ……ふと、気分が変わった。


「ちょっとそれ貸して」

「はぁ? なんで」

「いいから」


 と、半ば引ったくるように取ったギターを弾き鳴らす。


 ……道理でおかしいと思った。

 思いっきりチューニングがズレてる。


「おまえ……ギター弾けたんだな」

「小5からずっとやってたよ。知らなかった?」


 ペグと弦をいじりながら素っ気なく応答する。

 まあどうせ初耳だろうけど。

 あの頃からもうお互い別グループだし。


「はい。じゃあ私はこれで」


 調律を済ませたギターを返し、自転車に跨がる。

 そのとき、蒼汰が躊躇いがちに口を開いた。


「あ、あのさ……」


 内容は聞かなくても想像できた。


「じ、実はうちの部、万年人員不足なんだよね。だから経験者はいつでも歓迎っつーか。その……もし陽葵が良ければ」

「遠慮しとく」


 ならなんで部室じゃなく公園で練習してるんだか。

 部活に友達いないから仲間が欲しいって、魂胆がバレバレ。嘘が下手なのは昔から変わってないな。


「今更部活なんて、どこにも入る気ないから」

「……そっか」

「でも」


 肩を沈ませる蒼汰に、……気づけば口が勝手に動いていた。


「私、いつもこの時間に下校してるんだよね」

「え?」

「……何でもない。それじゃ」


 ごまかすように、さっさとその場を後にする。


 何であんなこと口走ったのか、自分でも分からない。

 ただ、何故だろう。

 不思議と、明日の放課後を心待ちしている自分がいた。

【お題:音楽 テーマ:音楽が繋ぐ絆 文字数:1000字】

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