【コメディー】卒業式の告白ごっこ
春……それは恋の季節。
別れの日を目前に控え、いままで気づかなかった想いが芽吹く時期だ。
卒業式の今日、私は憧れだった渚先輩を裏庭に呼び出した。
「……先輩」
「結月、その……大事な話って……?」
一年生の私にとって、先輩はいつも大人びて見えて。
高鳴る鼓動を抑えながら、深呼吸を一つ。
私の思いの丈を口にする。
「ずっと前から嫌いでした」
「…………んん?」
戸惑う先輩。すかさず私は、鞄からナイフを二本取り出す。
「私と突き合ってください」
「いや『付き合ってください』みたいに言うな。……ってか怖っ! 告白でナイフ突きつけるとか、とんだヤンデレじゃん!」
「ヤンデレじゃないです、ツンデレです。最初に『嫌い』って言ったじゃないですか」
「ウソつけ! それ絶対『ツン』じゃ済まないだろ、『グサッ!』ぐらいの殺意あるから!」
あ、めっちゃ引かれた。おかしいな、いつも通り話しかけたはずなのに。
仕方ないのでナイフ(おもちゃだけど)をしまい……今度こそ、正面から先輩を見据える。
「先輩、私とどつきあってください」
「『ど』が余計なんだよなぁ……」
「じゃあ私と殺し合いしてください」
「どストレート!? いいわけねえだろ当然却下!」
「頑なですね……。押してダメなら、今度は轢いてみましょうか」
「うわぁ、圧殺する気満々だこの人」
ツッコミ続きで先輩がげんなりしていた。
だけど、そんなやり取りに私は……「ふふっ」と、思わず笑ってしまう。
「寂しくなりますね。先輩とふざけあうのも、今日で最後だと思うと」
「え……」
先輩と出会ってからの一年間、本当に学校が楽しかった。
思い返すだけで、自然と笑みがこぼれるほどに。
「先輩との思い出は、私にとってキラキラと輝く宝物です。これからもずっと私の記憶に残り続けるでしょう。例えるなら、そう……ドライアイスの結晶のように」
「揮発性メモリだろそれ。記憶に留めておく気ゼロじゃん」
「冗談です。先輩と過ごしたこの一年は、本当に大切な思い出ですよ。誠に遺憾ながら」
「台無しだな最後の一言で! つーかそもそも」
先輩はバツが悪そうに頭を掻くと、一つため息をついて、
「俺、今年卒業しねぇぞ?」
「…………あれ?」
卒業式の日なのに、卒業しない……?
てことは……考えられる可能性は、ただ一つ。
「先輩、留年おめでとうございます」
「違ぇよ普通に進級だよ! 二年から三年に!」
うん、まあ、そうだよね。私と先輩、一つ違いだし。
知ってましたけど、何か?
【お題:ドライアイス、告白、大嫌い テーマ:ラブコメ風?のボケツッコミ 文字数:1000字】