【ホラー】眷属の作り方
気がつくと、私は深夜の墓場を必死で駆けていた。
理由はわからない。けれども背後の暗闇、そして迫る気配に、直感する。
――誰かに追われている。得体の知れない何者かに。
これは悪い夢だ。そう信じたいのに……。
ドクドクと脈打つ心臓の音。
全身を這うような怖気。
止まらない足の震え。
妙にリアルな質感が、これは現実なのだと、本能に訴えている。
「……だ、れ……か……っ!」
声が出ない。
助けを求めようにも、痙攣する私の喉は、掠れた音しか出してくれなかった。
走っても走っても、延々と続く墓場。
ワケがわからない。
頭の中はぐちゃぐちゃで、がむしゃらに足を動かすことしかできない。
そのとき、木の根に足を引っかけ私は転んでしまった。
痛みより先に、恐怖で頭が真っ白になる。
そこへコツリ、コツリ、と近づく足音。
「無駄だよ。キミはもう、ボクの世界からは逃げられないんだからさ」
その男は見るからに胡散臭そうな身なりをしていた。
シルクハットに黒マント、へらへらした笑顔はまるで詐欺師のよう。
信用できない。私の身体が勝手に縮こまる。
と、男は膝をつき、硬直する私の顔を覗き込んで、
「いい表情だ。……ふふ、ゾクゾクしちゃうね」
私の顎をくっと持ち上げた。
冷たく鋭い男の瞳が、嗜虐的に歪む。
――イヤだ、死にたくない!
「ハハ、そんなに怖がらないでよ。ほら、ボクの目をよーく見て」
その声音は妙に甘く、私の脳を直に揺さぶる。
「恥ずかしがっちゃダメだよ? ……そう。ゆっくり、ゆっくりと……ボクを信じて」
――ダメだ、この男に耳を貸してはいけない。
頭の奥で警鐘が鳴る。
……だけど抗うことができない。
吸い込まれそうな蒼い瞳。頭の芯がボーッとしてくる。
「……ふふっ、だんだん、眠くなってきたかな? 目がとろんとしてきた。そのまま、ほら……ボクに身を委ねちゃいなよ」
男は私を抱き寄せると、耳元でそっと囁いた。
これは夢だ。……夢みたいに心地いい。脳が痺れるような酩酊感。
微睡みの中、私の意識は暖かい闇の中へと墜ちていく。
――このままずっと、抱きしめられていたい。
そこでパチンッ、と指が鳴らされた。
その瞬間から、私の目に映る彼は別人のようだった。
ミステリアスな笑みを浮かべ、ゴシュジンサマが私の頭を撫でてくれる。
「はい、お疲れさま♪ これからよろしくね。……ボクのかわいいシモベさん?」
そして再び、彼の胸の中で眠りにつく。
これからずっと、この御方にお仕えできる幸せに浸りながら。
【お題:邪道ファンタジー テーマ:洗脳 文字数:1000字】