【コメディー】子供の海離れ
ここは俺のオアシスだ。
電気が通っていれば電波が飛ばせる。
電波が飛ばせればネットが使える。
ネットが使えれば世界と繋がれる。
たとえ周りが無味乾燥な砂漠でも、ネット環境さえ整っていればそこは楽園と化すのだ。
ああ……やっぱり文明って素晴らしい。
「……おい」
「っしゃ決まったー! レート戦4連勝いただき!」
「おいカズマ」
「対戦ありがとうございました、っと。あ、待っておじちゃん。あと一戦だけ」
「いい加減にしやがれ小僧!」
ネット対戦中だというのに、おじちゃんは俺のゲームコントローラーを鬼の形相で取り上げてしまった。
力ずくで取り戻すことはおそらく不可能だろう。
てかスキンヘッドで睨まないで。めっちゃ怖い。
「なにすんだよ、あと一戦だけって言ったのに~」
「うるせぇ。テメェここがどこだかわかってんのか?」
「? 海の家だろ? おじちゃんが経営している」
「なんで海水浴場に来てまでゲームしてんだテメェは! 海泳げよ!」
「そこはネットという名の海を泳いでいた、ってことで一つ」
「やかましいわ!」
叩かれた。ひでぇよDVだ、DV! 実の叔父とはいえ客に対する態度じゃない。
「なんだよ~、せっかく遊びに来たのに」
「どう見ても営業妨害だろうが。ゲームしたきゃ家に帰れ」
「いやいや、妨害じゃなくて宣伝だって。『うちはゲームもできる最高の海の家ですよ』ってさ」
実際、涼しい畳の上でアイスを食べながらゲームなんて、最高の贅沢だろう。
俺が持ち込んだゲーム機ならお客さんに貸してもいいから、ぜひこの神環境は維持してほしい。
「海の家でゲーム求める奴なんざいるかよ。ここは潮の香りとか海風とか、自然を楽しむ憩いの場所であって――」
「ねぇねぇ、おにいちゃんそれなんのゲーム?」
俺とおじちゃんのやり取りを見てか、小さな女の子がとことこやってきた。
そしてつられるように、他の少年少女達も俺の周りに集まる。
保護者のおしゃべり中、子供達はさぞ退屈だったのだろう。
気づけば海岸にいた子達まで続々と来てしまった。
「うおースッゲー! 最新タイトル一通りそろってんじゃん!」
「みんなでス○ブラやろうぜスマ○ラ!」
「つぎ、わたしにもかしてー!」
「な、宣伝効果あったろ?」
「……こんな繁盛の仕方、求めてねぇ」
その後、おじちゃんの店の売上げは格段に伸びた一方、何故かこの海水浴場では『ビーチから子供が消えた』なんて地元ニュースが出たとかなんとか。
まあ俺には全く無関係な話だけどね!
【お題:電気、オアシス、遊び テーマ:特になし 文字数:1000字】