【コメディー】プロメテウスのマヨネーズ
「で、結局今夜帰ることにしたのか」
昼食準備のために台所に立った俺は、自称魔王の幼女、テッサに訊ねた。
「ああ、妾の目的も果たせたのでな。世話になったなカズヤ」
テッサは出会ったときと同じように、無駄に自信ありげな表情で語っていた。
数ヶ月前、突然俺の前に現れた彼女は、異世界から『あるもの』を探しにこの世界へ訪れたのだと語った。
その『あるもの』とは何だったのか、俺には分からない。
ただ、帰ることを決心したってことは、それが見つかったという事なのだろう。
「なら、おまえと食卓を囲むのも最後だな。何が食いたい? 好きなもん作ってやるぞ」
俺の提案に、テッサは表情を輝かせた。
そして、冷蔵庫を指差して、
「マヨネーズ!」
「……はい?」
「あの白い液体があれば、あとは何でもよい! 好きに作れ!」
コイツ、料理人がヘコむ言葉を平然と言いやがる。
「……そんなにマヨネーズが気に入ったらなら、持ち帰ったらどうだ?」
「言われなくとも! それこそ妾がこの世界へ来た目的じゃからな!」
「は? じゃあおまえが探してた『あるもの』って」
「言っておらんかったか? 『世界征服のための兵器』じゃ」
「いやいや待て待て!」
聞いてない。聞いてないし、だとしたらなおのこと意味不明だ。
「仮にだ。仮におまえの目的が世界征服だとして、なんでそのための兵器が『マヨネーズ』になるんだよ」
「忘れたかカズヤ。お主は確かに言っておった。『どんな食物も、マヨネーズに勝るものはない』とな」
「言ったな」
「さらにこうも言った。『マヨネーズはすべてを美味に変える、神の食べ物である』と」
「世界の真理だな」
「妾もそう思う! よいか? 食とは全人種の根本をなす文化じゃ。ゆえに食を制すれば、世界を制したも同然といえよう! 神の食物マヨネーズさえあれば、妾の世界征服は自明なのじゃよ!」
「な、なるほどー」
なんて同意してみたが、さすがにマヨネーズで統治は無理があるだろう。
まあ正直異世界の事情はよく分からんし、どうでもいいけど。
「ひとまず今日の昼飯、マヨネーズ丼でいい?」
「うむ、最高じゃ!」
――ギリシャ神話において、プロメテウスは天界から『火』を持ち帰り、その結果人間界は繁栄したという。
そんな逸話を真似るかのように、テッサが持ち帰った調味料は異世界の食文化に革命を起こし、彼女はすべての民を虜にしたそうな。
まあとどのつまり、異世界でマヨラーが爆増したってことだ。
実に平和な世界征服である。
【お題:火、冷蔵庫、悪の目的 テーマ:プロメテウスの火 文字数:1000字】




