【童話】おじいさんとおばあさんの金塊
むかしむかしあるところに、真夜中に電気もつけず、息を殺して必死に金庫をこじ開けようとするおじいさんがいました。
すると突然、背中に懐中電灯の明かりが当てられました。
おじいさんはビクリと跳ねます。
「爺さんや、こんな時間に何しとるんじゃ?」
「ば、婆さん!? これは、じゃな……」
「おや? 金庫の番号、忘れたのかい?」
仕方ないねぇ、とおばあさんは金庫の前に座り、慣れた手つきでダイヤルを回しました。
カチャリ、と音を立てて金庫が開くと、中にはぎっしりと金塊が詰まっていました。
「お、おおすまんのぅ、ワシも物忘れがひどくなったもんじゃ。ありがとう婆さん」
「ほっほ、お安い御用じゃ。ところで爺さん」
「さて、もう遅いし婆さんは寝なさい。ワシもそろそろ寝ようと」
「その金塊、何に使うんじゃ?」
おばあさんの質問に、おじいさんは動きを止めます。
「……いや、大したことじゃない。誰かに盗まれちゃいないか、ちーとばかし気になったもんで」
「またギャンブルに使うのかい?」
「そ、れは……」
今度ははっきりとおじいさんの目が泳ぎます。
長年の付き合いです。おばあさんにはそれが図星を突かれたときの表情だとすぐにわかりました。
「ち、違うんじゃ! 別にワシは、やましい気持ちがあったわけじゃなく」
「構わんよ爺さん。持っておゆき」
「へ……? いいんか、婆さん?」
「ええよ。こんな辺鄙な田舎で、いくら財産をため込んでても仕方ないからねぇ。どんな形であれ、使ってやらなきゃ宝の持ち腐れじゃ」
「……そうか。それもそうじゃな」
おじいさんに残っていた罪悪感も、おばあさんの一言ですっかり消えてしまいました。
おじいさんは何の憂いもなく、金塊の1つに手をかけます。
そこで、「まあもっとも」とおばあさんは口を開きます。
「持ち出せれば、の話じゃがの。その金塊、一本15キロはあるんじゃ」
「ふっ! ぬぉぉおお……! あ、がっ! 痛だだだ! 腰が! 足がぁッ!!」
一般に、金の密度は1立方センチメートル辺り19.32g。コンクリートの約8倍の重さがあります。
持ち上げようとして腰をやった後、足の上に金塊を落としたおじいさんは、老齢とは思えない機敏さで床にのたうち回りました。
その様子に、ほっほ、とおばあさんは笑います。
「そうそう、換金して余った分は元に戻しておいておくれ。後で私も使うからねぇ」
翌日、換金したお金で、おじいさんは街へ競馬に、おばあさんは里へパチンコに行きましたとさ。
【お題:音、金庫 テーマ:老夫婦 文字数:1000字】




