【ローファンタジー】魔法少女の成長
「4月から高校生かぁ」
卒業式からの帰り道、魔法少女レナはぼんやりと呟いた。
魔法少女の適齢期は中学生まで。頭ではわかっていても、卒業の実感はイマイチ湧かないのだろう。
脇道にはツクシや野花が芽吹き始めている。
通い慣れた通学路は、冬の色から春の色へと変わろうとしていた。
試しに魔法のステッキを振ってみる。
……何も起きない。魔法の光は出てこなかった。
肩を落とすレナに、妖精のフランは「仕方ないよ」と励ます。
「レナが大人になった証なんだし、喜ばしいことじゃん」
「そりゃわかってるけどさ~。もう魔法が使えないなんてつまんないよ」
「あらら、そこはまだ子供なんだね」
やさしく笑うフランに、「いいじゃん別に!」なんて、レナが頬を膨らませる。
その表情は怒っているようでそうでもない。心の底では楽しげに笑っていた。
「まっいいか。魔法は使えなくても、フランがいれば寂しくないもんね!」
なんて、明るく振り返るレナ。
身長は昔より高くなり、成長した姿にフランは「ふふっ」と笑う。
「でも、ボクはうれしいな」
「……フラン?」
「あんなに泣き虫だったレナが、もう高校生だなんてさ」
6年前、初めてフランに出会ったとき、レナは小学生3年生だった。
レナが泣いたとき、笑ったとき、怒ったとき、いつも側にはフランがいた。
まるで保護者が子供の独立を想うように、フランは感慨深げに呟いた。
「もう魔法は使えないけど……レナなら大丈夫。ボクが言うんだから、間違いないよ」
そのとき、レナは気がついた。
フランを取り巻く魔力の流れが、どんどん弱くなっていることに。
フランの輪郭が、儚く消えていく。
レナは信じて疑わなかった。
魔法が使えなくなっても、フランはずっと側にいてくれるんだって。
フランのいない世界なんて、もう考えられない。
「…………ウソでしょ? ねえ、待ってよフラン!」
少女は妖精に向けて手を伸ばす。
だがその手が妖精に届くことはない。
「ごめんね」と、フランは寂しげに笑って。
「ボクはずっと、キミを見守ってるよ。…………元気でね、玲奈」
フランが消えると、一陣の風が吹き抜けた。
その風は春の香りとともに、少女の涙を運んでいく。
卒業式。
それは大人への階段を登る節目の日であり、……別れの日でもある。
【お題:卒業式、妖精、最弱の流れ テーマ:消えてゆく親友 文字数:917字】