【コメディー】悪魔の恩返し
仕事の帰り道、悪魔の少年に遭遇した。
なぜか狩猟用の罠にかかった状態で。
黒い羽と小さな手足をバタバタさせてもがく姿は、なんか見てて手を差し伸べたくなるな。
ちょっとマスコットキャラっぽいし。
「そ、そこの人間! ちょうどよかった、ボクを助けてくれ!
今ならキサマが嫌いな奴の財布を紛失させてやったり、ネットで誹謗中傷してきた奴の個人情報を拡散したりしてやるからさぁ!」
「ゆがみすぎだろ、おまえの恩返し」
言ってることは全然可愛くなかった。昔話の鶴とは大違いだ。
てかそもそも、悪魔の言葉って信用できるのか?
「んなこと言って、どうせ助けた途端、「バカめぇ」とか言って俺に呪いかけたりすんだろ?俺は詳しいんだ」
「しないしない! 呪いなんかかけないって、信じてくれよ!」
「狼少年って知ってるか?」
「ボクまだ嘘ついてないんだけど!?」
「ついてたんだよなぁ散々。今まで俺が読んできた創作世界の悪魔達は、さ」
「知らないよ! それただの偏見じゃないか!」
偏見っつーか、テンプレだよな。
なんて冗談言ってたら、悪魔が急にしおらしくなってきた。
潤んだ上目づかいで必死に訴えかけてくる。
「なぁ、頼むよ……ホントに痛いんだよぅ……。今なら主従契約だって結んでやるからさぁ」
「それ結ぶと俺にどんな得があるんだ?」
「……中二心が満たされる」
「そんだけかよ」
いや確かにちょっとそそられるけどさ、悪魔を使役できるって。
でも正直、それとは別にコイツのこと助けたくなってきたんだよな。段々可哀想になってきたし。
ああクソ、そんなしょんぼりした顔すんなよ。俺、そういうの弱いんだって。
「分かったよ、助けてやるから泣くな」
「うぅぅ……、ありがとうございますぅ……」
約束通り、悪魔が主従契約の呪文を呟くと、俺と悪魔の双方で光が結ばれた。
それを確認した俺は、悪魔の足から罠の虎挟みを外す。
自由になった悪魔は小さな羽で飛びたった。
そして、ニヤリと笑って、
「ふははは、ばぁかめぇ~! まんまと騙されたな! 主従契約っつっても、キサマが主人だなんて一言もいってないぜ! 覚悟しろ人間、今日からキサマはボクの奴隷――」
「お、この虎挟みまだ使えんじゃん。もらっとくか」
「あああごめんなさい! 言うこと聞くからそれだけはもう勘弁してご主人様~!」
なんて、涙目で縋りつく悪魔を見下ろしながら、俺は思う。
誰かを隷属させるのも案外悪くない気分だな、って。
……なんだか俺の方が悪魔みたいだな。
【お題:ゆがんだ恩返し テーマ:ショタっ子悪魔 文字数:1000字】




