【コメディー】お味噌汁サーファーの指南術
沖に出る。サーフボードに乗る。転覆する。……これの繰り返し。
サーフィンを始めて早数ヶ月。一向に上達する兆しが見えない。
海に浮かびながら、俺は途方に暮れていた。
……クソ、今日は朝からトコトンうまくいかない。
コツは全然掴めないし、……おまけに変な人に絡まれるし。
「ダメダメ、今のじゃうまく波に乗れないわ。もっとお味噌汁をイメージしないと」
なんか隣から謎のサーファーお姉さんが檄を飛ばしてきた。
誰だよアンタ。さっきからアドバイスが意味不明だし。
「いい? サーフィンってのはね、お味噌汁みたいなものなの」
「……はぁ」
「あなたはお味噌汁の具は何を入れるかしら?」
「……ワカメとか豆腐っすかね」
適当に返答すると、彼女は「いいチョイスね!」と指パッチン。しゃらくせぇ。
「豆腐のように柔軟に、ワカメのように身を委ねる。これがサーフィンのコツよ。そうすればいずれお味噌の味も染みわたってくるわ」
「……お姉さん、もしかして酔ってます?」
「何言ってるの。お味噌汁で酔うわけないでしょう?」
「シラフで変人だったか……」
ある意味酔っ払いよりタチが悪いなおい。
「ほらボーッとしない。次の波、来たわよ」
そう言うと、彼女は自分のボードでパドリングを始めた。
負けじと俺も、来たる次の波に意識を集中する。
今度こそ……今だ、テイクオフ! バランスを取って……。
「うおぁ!?」
立ち上がった瞬間、足を取られて転覆した。
……ダメだ、やっぱりうまくいかねぇ。
波は去り、穏やかな海面に俺とボードが浮かぶ。
「……悔しい?」
「…………」
「口の中しょっぱかったでしょ。何でだかわかる?」
「……悔し涙のせい、とか言うつもりっすか?」
「違うわ。お味噌汁だからよ」
「海水だからでしょうが普通に!」
うぜえええ! 何だよその「お味噌汁だからよ」っつったときのドヤ顔! クッソ腹立つ!
だけど……同時に痛感する。彼女の波乗り技術は完璧だった。
俺が今まで出会ってきたどんなサーファーよりも、上手い。
そんな俺の羨望を見透かすように、彼女はふふっと笑った。
「弟子になりたい、って顔ね? 言っとくけど私は厳しいわよ。辛口の批評だってするし。でも……そうね、あなたの努力次第では私も甘くなるかもね。そう、まさに」
そして、したり顔でウインクを返しながら言う。
「じっくり火の通った、お味噌汁のネギのように、ね?」
「いや勝手に話進めないでくれます?」
アンタが師匠とか御免だわ、いくら上手くても。
第3回なろうラジオ大賞 お蔵入り作品
【お題:お味噌汁、サーファー テーマ:変人 文字数:1000字】




