【ハイファンタジー】息子とは“息を吹き込んだ我が子”のこと ~とある魔法人形師の言葉~
薄暗い作業室の窓から朝日が差し込んだ。
部屋のホコリが光の粒子となって、幻想的に踊っている。いつの間にか夜が明けていたようだ。
私は椅子の背もたれにゆったりと身体を預けた。
人形作りに熱中すると時間を忘れてしまう。私の悪い癖は、大人になった今でも直っていない。
「でも、あともう少しだけ……」
私はぐっと伸びをして、手元の人形の仕上げに取りかかる。
と、廊下からとてとてっと、小さな足音が駆け寄ってきた。
「ママーみてー。ゆーくんの糸がね、ほつれちゃったの」
不安げに眉を下げながら、幼い人形が私に腕を差し出してきた。
左右非対称な顔に、縫い目の目立つ歪な身体。だけど見た目なんかどうだっていい。
この子は私にとって、初めて自分一人で作り上げた大切な我が子なのだ。
「待っててね、これ終わったら治してあげるから。ほつれた所あんまりいじらないでよ?」
すぐにでも構ってあげたい気持ちをぐっと堪えて、答える。
ここで集中を切らしては、作りかけの人形に生命は宿らない。
一針一針、魂を込めて縫っていく。
この子にも優しい友達がいっぱいできて、幸せになりますようにと願いながら。
「……よし、できた!」
できあがった人形に、私はふぅっと息をかける。
魔法の吐息が人形に溶け込んでいく。やがてこの子にも魂が宿ることだろう。
「ママー、その子だぁれ?」
「ゆーくんの新しい兄弟だよー。3日くらいしたらお話しできるようになるからね」
「やったー! ゆーくん、またおにいちゃんだー!」
「ふふっ、そうね。たくさん遊んであげてね」
ユウは新しい人形を受け取ると、嬉しそうに抱きかかえて、遊び場へと連れて行った。
「あ、ちょっと! ほつれた部分治さないと」
なんて呼びかけても、今のユウの耳には入らないみたい。
……仕方ない、お昼寝の時間にでもこっそり治してあげよう。あの程度ならいますぐほどける心配はないし。
「……私、ちゃんと皆の母親になれるかな?」
再び背もたれに身を預けて、窓に映った自分の姿に問いかける。
人類が滅亡してから早半年。
窓の外には、花も緑も水もない。
茶色一色。どこまでも枯れ果てた荒野が広がっている。
そして生き残ったのは私だけ。
……だけど不思議と絶望はない。
荒廃しきったこの世界で、私には大きな夢が一つできたから。
「私だけでも長生きしないとね。……あの子達の為にも」
元の人間の国よりも、幸せに満ちた人形の国を作りたい。
子供の頃抱いた夢は、まだ始まったばかりだ。
【お題:息子 テーマ:人形の国 文字数:1000字】




