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【恋愛】ハーブティーは天然の惚れ薬

 魔界の郊外にポツリと建つ薬屋があった。

 閑古鳥の鳴く店内で、今日も店主の魔女は優雅に読書を嗜む。


 魔法で湯を沸かし、その日気に入ったハーブティーを入れて、静かに本をめくる贅沢な時間。

 薬草の香りに包まれながら、ゆったりと流れる時を味わう。

 そこは彼女にとっての憩いの空間なのだ。


「……そろそろかしら」


 魔女はつぶやくと、静かに本を閉じた。

 そして誰かを待ち焦がれるように、ジッとドアを見つめる。

 すると、


「邪魔するぜ」


 チリン、とドアベルが鳴り、久しぶりの来客を知らせる。

 それは魔界の客らしい異形の男だった。

 角と翼の生えた一体の悪魔は、魔女を見るやズカズカと店内を歩く。


「先週注文した麻痺毒のポーションを受け取りに来た。準備はできているのだろうな?」

「あら、ごめんなさい。今ちょうど蒸留中なの。あと20分ほど待ってて」


 嘘だ。本当はもう瓶詰めまで済ませていつでも渡せる。

 だがここは魔界。悪魔が住まう地では、嘘つきなど悪事のうちに入らないだろう。


「……チッ、ならここで待たせてもらうぞ」


 備え付けの椅子に、悪魔はドカリと腰を下ろす。

 魔女はのんびりと立ち上がると、上品な仕草で彼の前にもティーカップを差し出した。


「せっかくだし、少し休んでいったら? ちょうどハーブティー淹れたところなの」

「けっ、人間用の嗜好品なんかいらねぇよ」

「とか言って、いつも美味しそうに飲むくせに」

「休憩のついでだよ。出されたモンは仕方なくだ」


 素っ気ない態度を示す悪魔に、魔女はやわらかい笑みを浮かべる。


 ティーカップからは白く湯気がのぼり、ラベンダーに似た香りが漂っている。

 悪魔はカップを手に取ると、一口飲もうとして……手を止めた。

 そして水面に浮かぶ自身の顔をじっと見つめる。


「……なぁ」

「何?」

「おまえ、毎回このハーブティー? って飲み物出すけどさ。毒とか入れたりしねぇの?」


 何気なく出た疑問は、至極まっとうな懸念だった。

 この魔界では珍しいことでもない。


「おまえ薬屋なんだから、悪魔を意のままにする薬とか作れんだろ? 俺を奴隷にするか、暗殺してどっかに売ろうとは思わねえのか? その方が儲かんだろ」

「薬を盛ろうかとは昔考えたわ。結局やらなかったけど」


 なんて、魔女は楽しそうに笑うと、


「だって、薬なんかで思い通りにしちゃつまらないじゃない?」

「……おまえ、時々怖ぇこと言うよな」


 ジト目で嘆息する悪魔の様子に、

 魔女は妖艶に、だがどこか嬉しそうに微笑むのだった。

【お題:悪魔、魔女 テーマ:憩いの空間 文字数:1000字】

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