【ハイファンタジー(シリアス)】主従関係最後の日 ※残酷な描写あり
戦場の跡地は凄惨な有様だった。
賑やかだった街並みは瓦礫の山に変わり果て、散らばる骸達は誰にも供養されず、野ざらしにされている。
そんな腐臭漂う地獄跡を、死霊魔術師の少女が歩いていく。
死体にも瓦礫にも目もくれず、ただ真っ直ぐに。
そして、砕けた一体のガイコツの前で立ち止まった。
「無様ね。腐乱死体の頃よりもずっと」
「……申シワケ、アリマセン」
「なぜ謝るの? アンタは私の命令に忠実に従い、忠実にくたばっただけでしょ?」
「デ、スガ……」
ガイコツはカタカタと顎を震わせる。
無念さを噛みしめるように。
「俺ガ、陽動ニ惑ワサレナケレバ……コンナコトニハ……」
「同じよ。アンタがどこを見張ってようが、どうせ敵は侵攻してきた。それに陽動だろうが攻撃には変わりない。あのときいち早く集落を救えたのはアンタの手柄よ。誇りなさい」
「デ、モ……ソレデ街ガ壊滅シテハ、何ノ意味モ……」
「……ハァ、アンタって本当」
バカね、とは思ったが、口には出さなかった。
死者のくせに、どうしてそこまで他人の生死にこだわるのやら。
「一つ、教えてあげるわ。死霊魔術師ってのはね、従者を信用してないのよ。墓荒らして無理やり隷属させた野良の死体が忠誠を誓うわけないしね。だからアンタを起用した時点で、勝手に裏切られて街も集落も両方陥落したって何の不思議もなかった。どちらか一方が無事だっただけでも、私にとっては儲けモンなのよ」
少女は右手を掲げると、その手に炎を纏わせた。
「てなワケで、アンタの役目はもう終わりよ」
用済みの烙印を突きつける少女に、ガイコツは呟く。
「ヤサシイデスネ、アナタハ」
「……話聞いてた? それとも感情まで腐り落ちたのかしら?」
決死の覚悟で戦った従者に向かって、不信感を突きつけた挙句切り捨てる主のどこが優しいというのか。
「ヤサシイ……デスヨ。死霊魔術師ナラ、死者ヲ道具扱イスルノガ普通ナノニ……。最期マデ、俺ヲ人トシテ見テクレテ……」
「どうかしら? 私の本心なんてアンタには分からないでしょ?」
「ナラ何デ、弔イニ来タノデスカ?」
火葬されず腐りゆくはずだった死体に囲まれながら、
「アリガトウ、ゴザイマシタ」
ガイコツは少女の手の炎を見つめて、小さく笑った。
「アナタニ従エテ、夢ノヨウデシタ」
「……そう。ならいい加減眠りなさい」
放たれた炎は灰色の瓦礫を一瞬で赤く染める。
少女は炎をジッと見つめる。
その光景を――彼の最期を、記憶に焼き付けるように。
【お題:ガイコツ、消えた主従関係 テーマ:見えない優しさ 文字数:1000字】




