【バトル】主人公選抜試験
立ち並ぶビル群の一角。
屋上を抜ける夜風に黒髪を靡かせ、忍装束の少女は静かに目を閉じる。
今宵課せられし題目は『奇襲に対する迎撃』。
故に敵はどこから現れるか不明。
心眼を開き、風を読み、少女は全神経を集中させる。
…………殺気を捕らえた。
南東方向。少女は咄嗟に後方へ跳ぶ。
――だが遅かった。
脇腹を衝撃が抉り、身体がビルの屋上から投げ出される。
眼下には100m先に道路網。落ちれば死は確実。
少女は懐から新体操のリボンのような武器を取り出して振る。赤い帯を屋上の柵に巻きつけ、身体を振り子のように上へと投げる。
身を翻し、屋上に足を着くと、見知らぬ男と目が合った。
「ほう、あそこから生還するか」
鋭い眼光に明確な殺意。
だが少女は一切動じず、凜とした口調で告げる。
「私は殺傷を好まない。ですがあなたが本気なら、私も本気を出さざるを得ない。今なら間に合います。どうか刀を納めて――」
「無用な心配だ。殺しても構わん。全力で来い」
その言葉を合図に、少女はリボンを振るった。
鞭のようにしなる赤い帯を男が刀で捌き、甲高い金属音が響く。
リボンと刀が奏でる刹那の攻防の連続。
そのとき、少女の視界の隅で何かが動いた。
「こ、子供!?」
それは不安げな表情で彷徨う幼子。
そこへ隙を突いた男がナイフを投擲。
何故こんなビルの屋上に子供が?
そんな疑問に答えを出す暇もなく、少女は動いた。
それが男の見せる幻術とはつゆ知らず。
ナイフより速く駆け、軌道を逸らし幼子を守る。
だが戦闘中のよそ見は致命的な隙を生んだ。
ガラ空きになった背中に剣閃を受け、少女は苦悶の表情で床を転がる。
「ぁぐ……!」
油断した。
突きつけられる実力差。だが彼女は歯を食いしばり、立ち上がる。
――このまま終わるくらいなら。
少女は隠し持っていたリボンをすべて解放。紅いリボンの旋風を生み出す。
「奥義、蛇鱗舞撃!」
無数のリボンは蛇のように宙を波打ち、一斉に男へと牙を剥く。
と――
「そこまでっ!」
男の号令に、少女はピタリと動きを止める。
「初手に和平の提案。戦禍でも幼子を助けようとする正義感。そして形勢を逆転させうる切り札。――申し分ない」
緊張の面持ちの少女に向けて、男は刀を納めて告げる。
「合格だ、リボン使いのくノ一。現代を生きる忍者として、貴様をバトルもの作品の主人公に採用する」
「はっ! ありがとうございます!」
こうして世界にまた新たな物語の主人公が誕生した。
物語は今もなお増え続ける。
【お題:夜、リボン、増える主人公 テーマ:現代を生きる忍者 文字数:1000字】




