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乙女ゲームのヒロインに転生したけど、シナリオ崩壊していたので魔法少女始めました

ストレス発散とリハビリを兼ねて。

 乙女ゲームのヒロインに転生した。

 そう気づいて、どれくらい経っただろう。


 私の名前はアリサ。前世は地球の日本人で、今はしがない一平民だ。

 魔法の才能に目覚めると同時に前世の記憶を取り戻し、あれよあれよという間に魔法学院の特待生入学が決まり。

 そこで過ごしていくうちに、出会った何人かの人が前世の記憶と一致した。

 多少の違和感があったものの、あ、これ乙女ゲームだと確信した。


 そんな私が、


 「とぉりゃぁあああっ!!」

 『くっ、じャまヲスるナ!!』


 ……なぜ、触手を全身に生やした黒い謎の生物?と前世で言う『魔法少女』っぽい格好の少女との戦いに巻き込まれているのだろう。

 もちろん、こんなのシナリオにない。あったら対策くらい考えてる。


 ちなみにこうなった経緯については、


  ・攻略対象の何人かと少しだけ仲良くなった

  ・そのファンらしい令嬢に絡まれた

  ・そこへ推定魔法少女が現れた途端、謎の生物が令嬢から出てきて暴れだした


 以上。

 ちなみに、令嬢は謎の生物が出てきてから気絶している。


 「滅せよ妖魔――シャイニングセイバー!!」

 私が回想という名の現実逃避をしている間に、決着は着いたらしい。

 少女が振り下ろした剣型の光に貫かれ、謎の生物改め妖魔は霧のように消えた。


 「では私はこれで「待たんかい」ひゃっ!?」

 そのまま去ろうとした少女だが、逃がしはしない。回り込んでしっかり腕を掴んでおく。

 田舎の平民の体力舐めるなよ。


 「聞きたいことがある。でもその前に……」

 まず、これは確認しておかねばならない。


 「日本、という場所に心当たりは?」

 「えっ!? まさかあなたも?」

 はい、ビンゴ。やっぱり転生者だった。






 「実はですね、私、前世でも魔法少女やってまして」

 自己紹介の後、魔法少女――今はエリーゼ=カークライト子爵令嬢というらしい――に説明してもらう。

 「その敵というのが、人間に取り付いて負の感情を増幅させ、それを喰らう妖魔たちなんです。さっき私が戦っていたような奴ですね」

 「そういうことだミャ!」

 いつの間にか、エリーゼの肩に謎の生物がいた。さっきの妖魔が黒い謎形状なら、こっちは白い猫モドキだ。猫には角も羽根もない。


 「あ、この子はネルっていいます。魔法の国……ってこの世界で言うのもおかしいですけど、そこから来た魔法生物なんですよ」

 「ふーん。じゃ、その魔法生物さんに聞くけど。なんでこの世界にそんなものが出るの? この世界、もう少し平和な乙女ゲームのはずだったんだけど」

 「「え?」」

 「は?」

 魔法生物はともかく、エリーゼまで固まってる?


 「ええと、ちょっと待ってください。乙女ゲーム、ですか?」

 「うん、『魔法使いの絆と契約』ってタイトル。聞いたことない?」

 「いえ全然……もともと私、そういうのに疎くて」

 「そっか。まあ、とにかく妖魔みたいなのは出てこないゲームなんだよ。攻略対象の悩みやトラウマとかを寄り添って解決していく的な話で……」

 「え?」

 エリーゼが、今度は真っ青な顔で固まった。

 あれ、何か嫌な予感。

 そういえば、妖魔は負の感情を増幅させて喰らうとかなんとか言ってたけど……


 「もしかして……例えばだけど、レイル殿下が7歳くらいの時の暗殺未遂事件、未然に防いじゃったりした?」

 「え、あれ暗殺だったの!? 道理であの時、お城の周辺にやけに妖魔に憑かれた人多いなーって」

 「防いじゃったんかあぁ!!」

 本来ならその時乳兄弟を失い、病的なまでに強さを求めるようになるのがレイル殿下なのだが。

 実際は……『いやあ負けてしまったよ、はっはっはっ』なんて笑ってたよなぁ……模擬試合で。

 まったく悲壮感なかったから、おかしいとは思ってたけど。


 「ジェイク様が幼児愛好家の変態女に誘拐された事件は?」

 「えーと……ああ、あのキャラが濃すぎる人! かなりでかい妖魔が憑いてたから、急いで祓ったけど……被害者は平民の男の子一人だけだったよ?」

 「つまりジェイク様がさらわれる前だった、と」

 それでかー……女嫌いのはずなのに、逆にナンパ男になってたし。

 ジェイク様、結構好きだったんだけど……流石にあれはなさ過ぎて冷めたわ。


 「エドガー様の実家が悪徳商人に騙されて没落したのは……」

 「悪徳商人? そういう人の妖魔憑きはいっぱいいたからなぁ……目についたのは片っ端から倒してたから、流石に多すぎて覚えてないわ」

 「そっか……」

 「あ、でも黒幕っぽい貴族が何人かいたから、妖魔祓うついでにお仕置きしておいた」

 「元凶根こそぎ――!!」

 エドガー様のシナリオ、その貴族に復讐する話なんだよ!!

 なんてこったい……ラスボスすらいないんじゃ最早話が成立しないよ……


 「まさか……悪役令嬢のクローディア様が滅茶苦茶いい人なのも……」

 「あー……お父様のベルシュタイン伯爵が結構年季の入った妖魔憑きだったからねぇ。私が祓った時にはクローディア様、虐待3年くらい受けてたから放っておけなくて、強引に理由つけて友達になったんだよ」

 「それでかあぁぁ!!」

 そりゃ、正義の魔法少女が友達なら悪事働く方向にいかないよね!!

 もしお屋敷に遊びに行けるような仲だったら、使用人とかに妖魔憑いてても祓えるし!


 とうとう、私は地面に膝をついた。

 「楽しみにしてたのに……生の推し鑑賞できるって嬉しかったのに……」

 「えーと……なんか、ごめん?」

 「謝って済む問題じゃない……」

 あ、涙出てきた。


 いや、頭ではわかってる。

 エリーゼの行為は完全に善意だし、結果的に苦しむ人は減っているのだ。

 でも……


 「ウふフフふ……レイル殿下、今日コそハ既成事実を「変身、そしてシャイニングセイバー!!」ぎャあっ!?」

 打ちひしがれているこっちをよそに、通りすがりの妖魔憑きらしい令嬢にエリーゼが一撃をかました。

 そのまま変身を解く。多分30秒もかかっていない。


 ふととんでもない事実に気づき、私はぎぎいっと首を魔法生物に向けた。

 「ひょっとして……殿下たちの周りって、ああいう妖魔憑きがいっぱいいるの?」

 「え? ……うーん、言われてみれば確かに多いミャ。もしかしたら、妖魔たちにいい餌場と見なされたかもしれないミャ」

 「ふ・ざ・け・る・な――!!」

 ただでさえシナリオが崩壊してるのに、攻略対象の周りが妖魔だらけ!?

 ここは平和な乙女ゲーム世界であって、ヤバげな魔法少女ものじゃない!!


 「おい、謎マスコット」

 「僕の名前はネルだミャ!!」

 「私を魔法少女にできる?」

 「「え?」」


 後から思えば、その時の私は相当にキレていた。

 楽しみにしていた乙女ゲームの話や攻略対象、それらを台無しにした元凶どもをぶちのめしてやりたい怒りが私を支配していた。

 明らかに趣味ではないフリフリ衣装を纏うとか、その辺のデメリットなど頭から飛んでいた。


 「素質はありそうだけど、いいのかミャ?」

 「そうよ、妖魔と戦うなんて危ないから、一回冷静になった方が……」

 「い・い・か・ら・やれ!!」

 怒りのままに掴んだ魔法生物を、ぶんぶんと振り回す。

 「わかったミャ、わかったからやめるミャ!!」

 よし、言質は取った。


 魔法生物、しばらくぜいはあと息を整えた後。

 「契約の書よ、ここに来たれミャ」

 ぱあっと目の前に光る球が現れ、それが収まると一冊の本が宙に浮いていた。

 手を伸ばすと、何もなかったタイトル部分に『アリサ』と光る文字が浮かんでくる。


 「それを開くミャ。後はその本が教えてくれるミャ」

 言われるまま開くと、ページの文字がシュルシュルと集まっていき、やがてファンタジー小説に出てきそうな杖の形になった。

 白紙になったページに、新しい文字が浮かんだ――『掴み、契約を』と。


 杖を掴むと、文字の塊だったそれは光って形を変えだした。

 ページにまた別の文章が現れ、口が勝手に読み上げるが……頭の中では、全く別のことを考えていた。

 力を、力をよこせ。あの妖魔どもをぶっ潰す力を――!!


 手の中の光が、腕に巻き付いてブレスレットに変わる。同時に、本も消えた。

 これで終わりか、と思った瞬間。


 「「――――っ!?」」

 私と、多分エリーゼも感じた。

 ヒヤッとするような気配。私にもわかる。これは――敵だ。

 ブレスレットの効果なのだろうか、変身しなきゃと思った瞬間に体が煌めき……


 「ケけけケケけケッ、ジェイクめカクごしロ、死ヌがい「てめえが死ねや馬鹿野郎――!!」いゲっ!?」

 物騒なセリフを吐きながら登場した妖魔憑きを、私は怒りのまま蹴り飛ばした。

 怒りもあってか、力が溢れてくる。今ならこんな奴に負けない。


 右手に魔力を込めると、武器が現れた感触。

 それを振りかざし――

 「どりゃあっ!」

 「グぼォっ!?」

 起き上がりかけた妖魔憑きが、ハンマーの一撃で再び吹っ飛んだ。

 倒れたその体から、スライムっぽい妖魔が這いずるように出てくる。

 だが……


 「楽しみにっ! 楽しみに、してたのにっ!! お前らが、お前らのせいでっっ!!」

 怒りのままに振り回すハンマーがガンガン当たり、スライム妖魔がどんどん小さくなっていく。


 そしてエリーゼと魔法生物は、

 「うーわ、すごい八つ当たり……でもちゃんと使いこなせてる……」

 「うん、ボクの見立ては間違いなかったミャ!」

 「あれ、そーだっけ?」

 黒を基調とした衣装に変身して巨大ハンマーを振り回すアリサを、ただ見ているしかなかった。





 こうして、愛と正義と乙女ゲームを台無しにされた 怒り(やつあたり)の為戦う魔法少女がここに爆誕した。

 その結果、ますます乙女ゲームから遠ざかったことに彼女が気づくまであと1週間。

続かない(笑)

だって勢いだけで設定考えていないし。

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