お食事中に見ないでください
マヒルさんが現れてから散々な目にばかり合うな。
守護霊どころか厄病神だよ。と心の中で呟く。
「御先祖様を厄病神扱いとは信じ難いですね……」
口に出ていたのか。
「いえ。ソンナさんの考えることなんて手に取るように分かりますので。」
そんなに私って単純だろうか。
「というか頭を経由してお話されてないようですし。」
それはそれですごくない?
マヒルさんと話していると誰かが呼ぶ声がした。
「すいませーん!神主さんはいらっしゃいませんか。」
呼び声がする方へ向かうと碧い長髪のパッと見では女性のような男性がいた。
「私、朝日 柊吾です。」
やたらといい声してるなあ。
「今日は神主様にお願いがあってきたんだ。」
なんでしょう。久々にちゃんと仕事出来そう。
「私はフリーでイラストレーターやってるんですけど仕事がなくて困ってるんだよね。」
そういうのはハロワ行ってくださいね。じゃあ。
「いやそうじゃなくて。なんか変な霊が憑いてるかもしれないので何とかしてください。」
そんなん言われても困る。霊が憑いてるかどうかもわからないしそういう問題ではない気はする。
適当にご祈祷してもいいが効果がなければ何を言われるか分かったものではない。
丁重にお断りさせていただこう。と思ったその時に後ろから声を掛けられた。
「おお、たしかに性質が悪いのが憑いてるな。ソンナちゃんと対応してやれよ。」
ワンコさんだ。めんどくせえ……余計な口出しすんなよなあ。
「不満そうだな。やる気が出るようにしてやろうか。」
あ、いえ滅相もございません。不肖ソンナしっかりと悪霊を除霊してみせます。
「ありがとうございます。じゃあよろしく。」
とりあえずトーゴさんにはしばらく待ってもらい、神聖な装束に着替え準備を進める。
しかし参ったな。霊とか信じてないし全く見えない。
そもそも何故この神社に来るのだ。私がこんなに困ってるのに神は助けてくれない。やっぱ宗教ってクソだな。
「なんと罰当たりな。神に仕えるものとは思えませんね。」
マヒルさんか。そう言われても霊感もないし一生懸命ご祈祷したくらいで何とかなるものなのか。
「まず私が守護霊ってこと忘れてませんか。」
そういえば話したいときに話してくれるロボットみたいな感覚だったが幽霊だったな。
「仕方ないですね。あの人が悪霊に取り憑かれているのは本当です。」
へーそうなんだ。どんな霊なのさ。
「山林で育った少女のようですね。どうやら何か未練があるようです。」
ほう。それならばその未練とやらを晴らしてやればいい。
「その未練というのがですね。自分の好きな食べ物を生前誰にも理解されなかったらしく、それを美少女に食べてほしいとのことです。」
なんだそれは。えらく可愛い未練ではないか。ならば美少女といえばこの私、ソンナが食べてやろうじゃないか。たまにはいい所見せないとな。
「なるほど。なかなかいい覚悟してますね。」
激辛料理だろうか。あまり度を越してるのは辛いのだが。
「味はまあそんなにキツイものではないと思いますよ。」
なら用意してくれ。もうそろそろ待たせすぎた。とりあえず時間だけでもつながないと。
たしかパソコンは使えるはずだな。宅配を頼んでおいてくれ。
「わかりました。がんばってくださいね。」
食べるだけなら楽勝だろう。
トーゴさんに先程マヒルさんから聞いたことをそのまま伝える。
「そんなので除霊できるの。変わった霊だね。」
本当そうですね。しかし中々配達が来ないな。相当珍しい料理なのだろうか。
「すいませーん。お待たせしました。」
やっと宅配業者が来たようだ。支払いはクレカ引き落としなので後払いだ。
荷物を受け取り、やたらと厳重に包装された箱を開ける。
開けた瞬間トーゴさんから悲鳴が上がり、私は息を呑んだ。
そこには大量の昆虫が入っていた。
なんてことだ。昆虫食というやつか。これを食べろというのか。
「いやちょっと私、虫ダメなんです。それ遠ざけてください。」
いや私もダメだよ。なに言ってんの。
「お、ソンナいい覚悟だな。さっさと済ませてやれ。」
いつの間にかワンコさんが背後に回っていた。大魔王からは逃げられない。
震える手を抑えながら箸で昆虫をつかむ。なんだこれは……恐らく蜂の成虫か。こんなの食べて腹を壊さないのか。
「早く食え。」
スパルタすぎんよ。目をつむり実は美味しいという一縷の望みに賭ける。
……なんかシャリシャリする。全く美味しくはない。泣きそうになりながら何とか箸を進める。
――数刻のち何とか食べ終わった。
正直何とも言えない味だったが非常に美味しかったと震える声で告げる。涙が何回か流れたが泣くほど美味しかったと伝える。その時どこからともなく声が聞こえた。
「ありがとう。満足しました。」
これは除霊成功したのでは。
「よくやったなソンナ。」
ワンコさんからもお褒めの言葉を頂く。トーゴさんも声が聞こえたようで喜んでいただけた。
神職として当然のことです。では必要経費とご祈祷料を頂きますね。
「え、お金いるんですか。お金はないですよ。代わりにイラスト描いてあげるからそれでいいですか。」
いや、いいわけねーだろ。
「いいじゃないか。たまには無償で人助けってのも悪くはない。」
え、何言ってんのワンコさん……キャラ違うんじゃないですか。
今度、私と神社のイラストを描いてくれるということで有耶無耶に終わってしまった。
やれやれ。骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだな。
とりあえず私の腹 が痛くないだけマシか。
さてと、ゲームでもして気分転換をするか。
ふと先程の昆虫食の請求書が目に入る。そこには6桁の数字が並んでいた。
あの料理にそんなお金を払わなといけないのかと思うとカードの支払日が憂鬱になるのだった。