悪霊?
夜になるとすっかり冷え込んできた。秋もあっという間に過ぎ去り冬も間近に迫ろうとしている。
「はっくしょい!」
神主装束はさすがに冷えるなあ。しかし秋から冬にかけては食べ物が美味しい季節だ。
私は特に果物なら瑞々しい梨が好きだ。なにせこの神社は梨の神様を祀っているのだ。そろそろ旬の時期も終わりだ。今年最後にもう一つ食べておくか。
台所に置いてあった梨の皮をむき、くし形に切りそろえる。
「では、いただきます。」
とその時どこからか声がする。境内の方からだ。
「ちょっと待って。僕の話を聞いてよ。」
昔のアニメで聞いたような声だ。紫色の敬語で常に話すボスキャラのような高い声。
慌てて境内に出るが誰もいない。こんなにハッキリと聞こえるのになぜだ。
「こっちだよ。こっち。」
どっちやねん。声だけで言われてもわからんねん。と心の中でセルフツッコミを入れる。
「鳥居がある入口の方です。」
鳥居の方に向かうが誰もいない。とうとう私の頭がおかしくなったか。と心配すると
「僕だよ、僕。」
声の方向には狛犬がいた。え、まさか。
「やっと気づいたか。遅いよ。」
狛犬が喋ってる。そういうのありな世界観なんですか。と神に問いかけたくなる。
「失礼だな。僕は由緒正しい狛犬だよ。そもそも狛犬というのはだね……」
その後延々と狛犬の歴史について語られた。でいったいなんのご用事ですか。
「最近、この神社に悪霊が取り憑いてるみたいなんだ。」
悪霊とはこの狛犬の事だろうか。
「僕は違うよ。僕はただの犬だよ。」
ただの犬は喋らない。
「まあいいや。忠告はしたからね。それじゃ。」
その声がすると辺りに静寂が訪れた。
何なんだよ一体……と思いつつ食堂に戻ると1時間も経過していた。梨は少々水気を失っておりパサついた食感になり、美味しさが半減していた。なんだよもう。
もう寝ようと寝室へと向かう。するとまた声が聞こえてきた。
「あの……よろしいですか。」
眠いからよろしくないよと思いながら声のする方を向くと茶髪の女性が立っていた。
とんでもないサイズの胸の持ち主で思わず目線がそこへと向かう。なんと立派な……
私も自信はあったがこれには到底敵わない。
「あの……」
というかこの女性どこから入ってきたのだ。戸締りはちゃんとしたはずなのに。思わず俯き考える。
それまで上半身ばかり見ていた視線が、初めて下半身に向き驚く。足が……ない。
「ひええええ!」
ゆ、幽霊だ。本当にそんなものがいるなんて。これが悪霊か。
「あの…お話してもいいですか。」
なんだよもう。取り憑くならマコちゃんかワンコさんにしろよ。
「そうじゃなくて。私はソンナさんに話したいことがあるのです。」
なんで名前知ってるんだよ。個人情報ガバガバすぎんよ。
「私はずっと前からここにいます。私はここの守り神。あなたの先祖ですよ。」
見たことないんだがなんという名前なのだ。
私の名前はマヒル。森口 真仁類です。
そのマヒルさんが何の用なのだ。
「最近のあなたはゲーム三昧で見るに堪えません。注意をしようと。」
これは悪霊だ。早いところ消えてもらわないとな。