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筋肉、盗賊を全滅させる

ボディビルダーは瞬発力凄いです。なにせ全身筋肉ですから。

「く、くそっ!なんなんだっ!?なんなんだよあいつはっ!!!」


ユーグランド国の辺境の地、リュクス近辺を拠点にする盗賊団。頭のベルムは走っていた。全力で。

こんなに死にものぐるいで走るのは何年ぶりだろうか。



楽な仕事だったはずだ。

国のお偉いさんの馬車を襲う。相手は武装した騎士三人だけ。通るルートや人数までわかっている。

たんまり金を貰った。まぁ、黒い理由だろうがそんなの知った事ではない。俺達は盗賊だ。なんでもする。


それがどうしてこうなった?

あいつはなんだ!?


あんな太い腕は見た事がない。

あんな分厚い胸を見た事がない。

あんなデカい脚を見た事がない。

あんな広い背中見た事かない。

あんな彫刻の様な身体見た事がない。


あんなのに殴られたら、絞められたら、掴まれたら…。考えただけで恐ろしい。


手下が相手をしている間にベルムは逃げていた。

とりあえず離れる。あいつから。


「くそっ!」


もう一言だけ吐くとベルムはペースを徐々に落とし立ち止まった。

かなりの速度で走っていたのだ。息もだいぶ上がっており額には汗が滲み出ていた。

鼻から下を覆い隠す布が今は邪魔で仕方がない。




「もう追いかけっこは終わりですか?」




バッと振り向いた。

信じられない。まだ数人手下は残っていたはずだ。

いや、それがなくとも俺の脚のスピードについてこれる奴なんてそうはいない。

身体強化魔法だけではなく、スキルまで使ったんだ。

まさか!あいつも同じ事ができるのか!?


ベルムは息を整えつつ冷静に思考する。

こいつと真正面から戦うのは危険すぎる。


腰に下げた布袋に手を入れ煙玉を素早く地面に投げつける。

ボッ!という僅かな音と共に辺りは煙で蔓延した。

ベルムが使った煙玉は自分で調合した物だ。普通の煙玉とは違い、僅かな幻覚作用をもつ。


再び身体強化魔法をかけ、ナイフを構える。

ナイフには濃い緑色の液体がべっとりとついている。


あの女騎士にも使った毒である。

これは致死性は低いが即効性が高い。ものの数秒で目眩や吐き気といった症状が出てくる。



スキルー隠蔽



ベルムは得意の隠蔽を発動させる。

隠蔽は不可視化の能力の一つである。完全に姿を消す事はできないが、足音を消す事ができる。


スキルは魔法とは違い、ある一定の条件を満たさなければ発現しない能力だ。

マジックポイントを消費しない代わりに一日に回数制限がある。


煙玉を使い視界を奪い、隠蔽を発動させ気配を消して背後から。これがベルムの必勝法。


ベルムはもう一つスキルを発動させる。



スキルー視覚上昇



視界の悪い煙の中で敵を感知できるのはこのスキルがあってのもの。

ベルムは素早く駆け出す。


一太刀!擦り傷でいい!それだけで逃げる時間は稼げる!


煙の中に人影を見つけた。あの男だ。

あの山の様な背中。

俺には気付いてない!いける!!


ベルムは勝利を確信した。

あと数センチでナイフが背中に突き刺さる。

全く気付いてない。これは致命傷になる可能性もある!



ガリッ


「へっ?」



ベルムは理解できなかった。



俺は岩でも刺したのか?

なんだそりゃ?なぜ刺さらない?

こいつ、人間か?



煙が晴れていく中で男は仁王立ちしていた。


フロント・ラット・スプレッド


背中を大きく魅せるボディビルの規定ポーズである。



「刺される覚悟で相討ちを狙ったんですが…何故かナイフが刺さらない様ですね。何故でしょう?」



ベルムは雄々しく立つ男を見上げていた。

なんだ…なんだこいつは。

まるで…



「では、少し寝てて下さいね。」




その言葉と同時に腹に今まで感じた事のない衝撃が叩き込まれる。痛みを感じる間もなくベルムは崩れ落ちた。

木々の隙間から差し込む光が照らす男の大きな背中を見ながら、ベルムは幼い頃の父を思い出していた。


「ふっ…ま、参ったぜ。」



薄れゆく意識の中で男が笑った様な気がした。


全身筋肉。いい響き。

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