筋肉、神と会う
最近ピーチマンゴー味のBCAAが美味いです。
暗い…どこだ?
冷たい。誰だ?誰かいるのか?
「気がついたようじゃな。」
飛び起きた伊織に話しかけたのは長い髭に白を基調にした美しい布をかぶった老人であった。
手には杖を持ち。杖の先には分かれた枝が虹色に輝く玉を絡め込んでいる。
「ここは…待ってください。俺は死んだ?妹は?ここはどこなんですか?」
わけがわからない。
そのはずである。伊織が見渡す一面真っ白。
上か下かもわからない。自分が触っている床であろう部分ですら曖昧なのだ。
数メートル先に立つ老人はニコニコしながらこちらを伺っている。
「…。すみません。取り乱してしまいまして。私は北村伊織と言います。よろしければお名前を伺ってもいいでしょうか?出来ることなら、いや、知っているならばこの状況も伺いたいのですが…。」
伊織はとりあえず立ち上がり老人に歩み寄る。
こんなわけのわからない状況だが不思議と恐怖心はなかった。どこかで死を受け入れている自分がいた。
死後の世界
そんなもの考えた事すらなかった。
俺は全力で生きた。どんなに周りにバカにされようが関係なかった。やりたい事をする、それに死ぬ気でベストを尽くす。そこには一切の妥協はしない。
うん…いい人生だった。心残りがあるとすれば妹だろうか?由美、幸せになるんだぞ。本当にありがとう。
「まだやりたい事があるじゃろ?」
老人は髭を触りながら伊織にそう言う。
「え?」
いや、全てやり尽くした!ナイスファイト!
その言葉が出なかった。
俺は…そうだ。誰かの役に立ちたかったんだ。
俺が好きな事で、そうこの肉体で、筋肉で、誰かの役に立って俺がしてきた事はただの自己満足でなかったと証明したかったんだ!!
「そう…そうだ!!俺は、俺はやり切ってない!まだスタートすらしてなかった!困っている人の為に!悲しんでいる人の為に!何をしていいかわからない人の為に!少しでも勇気を!元気を!幸せを与えたかったんだ!!!」
それは咆哮だった。
伊織は涙を流していた。死んでしまっては何もできないのだから。
「君は本当にいい心を持っている。君の生き方が人々に世界にどんな影響を与えるのか見てみたい。別の世界で、という条件だがやってみないかな?」
そう語る老人は伊織の肩に手を添えて笑いかける。
「別の世界へ?可能なんですかそんな事?」
にわかには信じがたい。だがこの状況だと信じざるを得ない。もし可能なら、俺は生きたい。やり残した事がある!
「その眼じゃと信じてくれとるようじゃな。君を異世界へ召喚する。これはわしの気まぐれじゃ。君みたいな人間ホントに稀じゃからの。楽しみじゃわ。」
そう言って笑う老人は掌を握り人差し指を伊織に向けた。
その瞬間、強烈な光に辺りは包まれた。
「あ!あなたは一体っ!?」
光の中で伊織は腕で目を隠しながら老人に叫ぶ。
「ふふふっ。行ってらっしゃい!北村伊織くん!」
薄れゆく意識の中で聞いた気がした。
助けを求める声を。