慰撫
パスカル・シクスの話に顔を歪める。
国王の軍師であるデュマ大公はやっぱり怖い人だった。
南方の海賊、反逆者、サンディ・アンツが国王に与して、サヴィダン公爵が留守にしたうちに公爵領に攻め込んだのだ。
自領を守るためにサヴィダン公爵は離脱し、戦場にはシクス侯爵家軍と、国王軍だけが残された。
「俺は、サヴィダン公爵がいなくても勝てるつもりだった。君ら、北方同盟がいなくても勝てるつもりだった……しかし両方はさすがに無理だ」
苦笑を浮かべるパスカル・シクス。どっちかだけなら勝てたの? ほんとぉ?
「まぁ、サヴィダン公爵が早期に離脱してくれたおかげで早めに撤退の決断を下すことができた。つらい敗走ではあったが被害は最小限というところだな」
ふぅーっと大きく息をつく。
「それに……」
片眉を上げた独特な表情で南の方角を見た。
「君らのおかげで国王軍が攻め込む隙は与えなかったしな」
そこには敗走するシクス侯爵軍を追撃してきたデュマ大公率いる大軍が布陣をはじめていた。
で、なんでこうなったんだろう。
自分の言動を振り返る。特に問題はなかったはずだ。
首を傾げながら横にいるフレデリックに合図を送るとフレデリックも頷き返してきた。
はじめはパスカル・シクスの「で、ジェルメーヌ嬢はまたやるのか?」という問いかけだった。
また? やる? なにを?
「そうだな。戦場を彷徨かれて危険な目に遭うよりは、やってもらおうか」
ベルナールお兄様が私の意思ガン無視で答えた。
彷徨かないよ? 戦場怖いもの。私は身の程を知っていますよ?
でも私が戦場で、特に役割を持っていないのも確かなことで……
大きく深呼吸。
「ごきげんよう、国王軍のフレンズ! あなたのお耳の絶世の恋人、ジェルメーヌ・ペドレッティですわー!」
なんで私はまたラジオペドレッティやることになってるんだ。しかもFMじゃない感じのやつ。
「はいはい、今日はねー、シクス侯爵の領土でやらせてもらってるわけなんですけどもー! ここまで勝ち戦勝ち戦で盛り上がってる国王軍の皆様が、ここで逆転負けしてしょんぼりして帰還するところを少しでも慰めて差し上げようという親切心でやらせてもらいますわねー!」
クレティアン橋では挑発の意味があったけど、ここでは……
ベルナールお兄様とパスカル・シクスの顔を思い出す。2人合わせて武力198。
……あぁ、挑発して負けるつもりがまったくないのか。
「まず最初にお便りが1通届いています! ノーラン在住、ジャン・ヤヒアさん、23歳の方ですわねー! ジャンさんお便りありがとう!」
もちろんジャン・ヤヒア子爵本人に書いてもらった。アメリーお義姉様のお兄さん、ノリがよくてよかった。
「『ジェルメーヌ嬢、こんにちは』……はい、こんにちはー! 『私はこの前、悪い人にシクス侯爵を裏切って独立しないかと勧誘を受けてしまいました』ってマジぃ!?」
いきなり大胆な告白だった。
「『でも私はノーランの領民が大好きなので断りました』だって! 偉い! ジャンさん偉い!」
なんか聞いてる兵士のみんなも「子爵すげぇー!」とか盛り上がっている。
「『ちなみにその悪い人の名前はデュマさんと言います』……そこにいる人かー」
悪い人、目の前にいた。
「はーい、じゃあここで特別ゲスぴぁ!?」
矢が飛んできた。び、びっくりした。
かなりの距離があるから流れ矢みたいなものが1本飛んできただけだったけど、地面に刺さったから驚いて変な鳴き声出してしまった。
「ダメよー、そんな矢を打ったりしたら。当たったら困るでしょ、私が! ……はい、で、特別ゲストをお呼びしていますよー! デュマさーん!」
悪い人を呼んでみた。
「あれれー? 聞こえないのかな!? それとも恥ずかしいのかなぁ!? デュマさーん!?」
このままなにも声を出さないようなら一方的に辱めてやろう……そんなことを思う中、国王軍の陣内から笑みを含んだ声が上がった。
「ごきげんよう、この国の宰相などをやらせてもらっているデュマ・テュラムだ」
……あぁ、これ、シブオジの声だわ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科