握手
「よくぞ援軍を出してくれた。シクス侯爵家の一員として感謝してもしきれん」
えっ、誰?
思わずぽかーんとしてしまった。
シクス侯爵家の中心都市ノーランに到着し、ここで補給を受けてからパスカル・シクスやサヴィダン公爵との合流のために進軍する予定だった。
戦場として想定されているのは、ここから一般的な進軍速度であれば約3日程度の距離にあるモンソローという広大な田園の広がる街の近郊だった。
モンソローの住民にとっては戦争で畑が荒らされることはほぼ確定なため、今年の収穫はぱぁだ。かわいそう。
そして、補給。そう、補給である。
後方を担当するシクス家の武将はニコラ・シクス。辺境仲良しクラブディス勢であり、以前、ベルナールお兄様にも突っかかっていったなぜか私達を目の敵にしている人物である。
……いや、本当に彼とか、彼を育てた先々代シクス侯爵のジョエル・シクスさんがなんで辺境仲良しクラブを目の敵にしているのかがよくわからない。
領土だけは確かに広いけど、なにか特別な産業があるわけじゃないし、なんだろう……広い領地が羨ましいんだ! ってことぉ?
まぁ、それは置いといて、そのニコラ・シクスが、である……
「貴殿らのガスティン侯爵との決戦の話を聞いたが、実に痛快だ。その武勇をシクス家のためにも遺憾なく発揮してほしい」
やたら上機嫌だ。
えっ、体を誰かに乗っ取られた?
本物のニコラ・シクスはどこか暗くて狭いところに閉じ込められて「タス……ケテ……ダレ、カ……」とか言ってる?
「あなたがジェルメーヌ殿だな。クレティアン橋では見事な働きと聞いているぞ。今回もよろしく頼む」
爽やかに笑いながら握手を求められた。え、えぇ?
「よ、よろしくお願いいたします。微力を尽くさせていただきましゅ」
思わず噛んだ、きもくて。
え、こうじゃないはずじゃん!
ベルナールお兄様に聞いた話と違うじゃん!
ニコラ・シクスの為人を聞いていた私は皮肉とか言われてばんばんに言い返すつもりだったのだ。
こう言われたらこう言おうっと! とか、考えてたのだ!
それが……えぇー? なんか思ってたのと違う。
ほら、「貴様らのような田舎者に補給などいるのか? 土とか木とかが主食でしょう?」とか言ってこいよ!
「侯爵から報告がきている」
ニコラ・シクスに会議室のような場所に通された。
パスカル・シクスはすでにノーランから出陣をしているが、まだモンソローに着陣しているわけではなく、周辺の村を慰問しながらの行軍らしい。大変だ。
王軍にとってもそれは同じで、決戦までは時間の猶予があるだろう、ということだ。
地図を見る。モンソローはちょうど王家直轄領とシクス侯爵領の境界のような場所だ。
なるほど、パスカル・シクスにも王にも周囲の村を慰問する必要はあるだろう。
サヴィダン公爵もすでに出陣しており、パスカル・シクス本隊との合流も近いようだ。
私達、ペドレッティ伯爵軍はノーランでアルテレサ伯爵軍、ペラン子爵軍と合流してから進軍することになる。
アルテレサ伯爵軍はガスティン侯爵との戦いで隻腕となったココ将軍が率いているということだ。無理はしてほしくないけど、それでもあの元気なおじさんとまた会えるのは嬉しい。
ペラン子爵軍を率いているのは美少女のお兄さんのキャメルさん。まだ会ったことはない人だけどベルナールお兄様の学園時代の後輩らしく、美少女のお兄さんに相応しいイケメンとのことだった。っていうかやっぱり子爵本人がやってきたクレティアン砦の戦いは無理があったんだろうなぁ。
「しかし、ですね」
言いづらそうにニコラ・シクスが口を開く。
「こちらも後方の部隊を王軍に狙われている。貴殿らの補給にも少しばかり手間取りそうだ。多少時間がほしい」
そうかぁー……まぁ、補給部隊を叩けるのなら叩くのが普通だもんねぇ。
その時点ではそう思っていた。
……そこから5日間足止めされるのは想定外だった。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科
キャメル・ペラン:サルヴァトーレ・エスポジート




