因果
歌って、踊って、食べて、飲んで、「わーい」って言って……
それはとてもとても、素朴なお祭りだった。
「ロニー様! ロニー様! やったー!」
「エルザ様ー、飲んで飲んでー!」
「ナタリー様も、これ美味しいよー!」
「わーい、ロランス様も食べて食べてー!」
みんな歓迎を受けて……歓迎っていうか、うーん、なんだろう。なんかよくわかんないけどみんな楽しそうだ。
しかし、ナタリー……? 誰だろう。
「ジェルメ……ジェルメル……ジェ……んっ! うんん! わーい、踊ろう!」
なんだ? 私の名前、そんなに言いづらいか? 長いか? すげーごまかされてしまった。
昼からずっと飲んでいるし食べている。
ボスのアデルと、その娘のコンスタンサもいろいろ話しかけてくる。
獣人の人口は5000人としおりに書いてあったが、その全員とまではいかなくても大多数が今、この場に集っているのだろう。
これだけの人が集まって楽しむというのは獣人にとって神聖なお祭りなのだろう。
私はとりあえずワインを飲んでいた。
「あっ、おーいしい!」
私の前世は成人OLだったので、お酒は飲んでいたし、その中で自分へのご褒美に一度だけ1本5万円の白ワインを買ったことがあったけど、それより美味しい。なんだこれ。
「美味しい? ほんとっ? ほんとっ? やったー! 嬉しいなー!」
私の声を聞いた獣人が喜んでくれて、それがみんなに伝播していく。
「ジェルメなんとかさんが喜んでくれたって! やったー!」
「ジェルさんがワインを飲んでくれたよー! 嬉しいなー!」
「わーい! 美味しいって言ってもらったー! わーい!」
一斉にみんながこっちを見て頭を下げる。
「ジェーさん、ワインを飲んでくれてありがとう!」
……あぁ、私は名前を覚えられない運命なのか。美少女の名前を覚えてないから因果応報なのか。仕方ないね。ワイン美味しいし。
とりあえずワインを売ってもらえるよう取引して……通貨がそのまま使えたのは驚いた……戻ってくるとボスの娘のコンスタンサと誰かが話していた。
「コンスタンサさん! コンスタンサさん! 今、いいかな!」
「もちろんいいよ、アデミールさん! わーい!」
みんな顔がポメラニアンだから脳がバグる。
とりあえずコンスタンサ嬢に話しかけているのはアデミール君というらしい。
「ボクと一緒に踊ってくれないかな! ボク、ずっとコンスタンサさんと踊りたかったんだ!」
「わーい! 踊ろう! 嬉しいな! 楽しいな!」
コンスタンサ嬢とアデミール君が手を繋いで歩いていくのを微笑ましく見る。
昼間のうちは5000人近くいた人々も夕方を過ぎてどんどん少なくなっていく。
それでもかなりの人数が残っているのだから、やはり獣人にとっては大事なイベントなのだろう。
「楽しんでおられますか、ジェルメーヌ様」
「えぇ、本当に誘っていただいてよかったです、ロニー様」
声をかけてきたロニーにワイングラスを掲げてみせる。
「でも、よかったんでしょうか。昼間は獣人の人口のほとんどがいたような大事なお祭りでしょう? 私達が乱入して迷惑は……ありそうにないですけどね」
迷惑だったとしても「わーい!」って言いそう。
「そう、ですね……彼らにとっては確かに大事なお祭りです。1年に一度ですからね。ただ、私も毎年参加していますけど、迷惑と思われていると感じたことはありませんよ」
うん、そうだと思う。
「でも夕方になって人も減ったみたいですね」
「あー……」
ロニーは微妙な表情をする。
「いやぁ、まぁ、夕方ですから」
歯切れが悪いというか、なにが言いたいかわからない。
「えっとですね……」
言いづらそうにロニーが口を開く。
「……このお祭りって、彼らの繁殖期なんですよ。彼らにとってはとても大事なお祭りなんです」
あー、そういう……
えっ、じゃあさっきのコンスタンサ嬢とアデミール君は……
あー、そういう……
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科
アデミール:犬