獣人
私は獣人と聞いてコボルトのようなものを想像していた。
ファンタジー世界のゲームでは常連ともいえる存在である。
犬面人身のモンスターであり、ある程度、精悍なキャラクターづけがされていると思う。
だから私は美少女が書いたしおりの犬が可愛らしかったことをとても微笑ましく思ったのだ。
誰が想像できる?
獣人が美少女が描いたイラスト以上に可愛いなんて。
「ロニー様だ! ロニー様だ! ロニー様だ! わーい!」
「ロニー様と……えっと、一緒にいるのは誰だろうっ? 楽しいね! 楽しいね!」
「こんにちは、ロニー様! やったー! 挨拶できたー!」
「お祭りだよ! 嬉しいね! 嬉しいね! 楽しいね!」
「みんなで踊ろう! 楽しいよ! ロニー様も踊ろう! わーい! 楽しいー!」
「ロニ……えっと、なんだっけ? 忘れちゃった……でも楽しい! わーい!」
馬車から出たそこは獣人の国だった。
見渡す限りの獣人である。
ロニー大人気じゃん……
ロニーは1人1人に親しそうに声をかけている。まぁ、彼は何年もこの土地に通ってるんだから知り合いも多いんだろう。
その獣人の1人1人が……
……みんな、顔がポメラニアンだった。
かっ、可愛い……
「きゃー! 可愛いー!」
エルザが飛びついて近くの獣人を抱きしめている。
「わーい! 可愛いって言ってもらえてボクも嬉しい! やったー!」
なんでそこで相思相愛だよ。いや、可愛いけど。可愛いのは間違いないけど。
ロランスにとっても想像と違ったらしく顔がやや引きつっている。美少女は近くの獣人の頭を撫でていた。美少女と犬……絵になる。可愛い。
美少女を見る。
うん、こっちも可愛い。いや、むしろこっちのほうがギリギリ可愛い。獣人まだまだだな。
「あっ! ボスがきたよ!」
「ボスがロニー様に挨拶しにやってきたよ!」
獣人達がざわざわする。このソウ辺境自治区のボス……もう長とかじゃなくてボスなんだよなぁ……ボスがきたらしい。ボスと呼ばれたのは2人の獣人だった。
「こんにちはっ! 今年もロニー様と会えて嬉しいな! 嬉しいな!」
「私もロニー様と会えて幸せっ! やったー! 今日はお祭りだー!」
いや、お祭りだけどね。お祭りだからきたんだけどね。
そう、ボスは白いポメラニアン2人だった。もちろんボスらしい威厳なんてなかった。ソウ辺境自治区で威厳とか期待してはいけない。
「あぁー! 撫でられてる! ボク、ロニー様に撫でられてる!」
「いいな! いいな、お父様! いいなー!」
片方を撫でながらロニーがこっちに顔を向けた。
「紹介します。ソウ辺境自治区のボスのアデルと、そのご息女のコンスタンサです」
あぁ、ボスが2人なんじゃなくて、ボスとその娘ね。娘……体は人間なので、服装を見ると確かに女性モノの服を着ている。顔のインパクトが強すぎてなかなかそっちに目がいかないなぁ。
「こんにちはっ! アデルです! ……あぁー!」
「こんにちはっ! コンスタンサです!」
ボスのアデルは撫でられ続けていた。喘ぐのはやめなさい。
エルザはそこにいた獣人を抱きしめながら、美少女は獣人を撫でながら、ロランスは顔を引きつらせながら、私はそのまま名前を名乗る。私が一番まともなのはどういう事態だろうか。獣人か? 獣人が可愛いのがいけないのか?
小声でロランスに耳打ちする。
「さっきから顔が引きつってるけど……もしかして犬が苦手とかかしら?」
「いえ、すいません。不測の事態すぎて頭が追いつかなくて……ロニー様から話を伺ったときも、まさか、ここまで犬だとは思ってなかったものですから」
あー、だよねー……
「はい!」
獣人を抱きしめ続けていたエルザがいきなり私の方を向いて手を上げた。
「はい、エルザ。どうしました?」
「私、これからソウ辺境自治区の子供になります!」
やかましいわ、シクス侯爵家令嬢。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科
アデル:犬
コンスタンサ:犬