神様
食事後、私達は村の奥の大きな屋敷に連れて行かれた。
「素敵なもてなしを感謝いたします」
「どうぞこちらへ」
皮肉を言っても笑顔のままであしらわれてしまう。
デニス達は毎日訓練を欠かさない屈強な兵だったとしても、私は戦闘には役に立たないし、もし役に立ったとしても20人は無理だ。
ベルナールお兄様だったらなんとかなるかもしれないけど……
いや、もしかしたら私も軍神の妹の血に目覚めることはあるのかもしれない。
とりあえず村人Aの前に両手を突き出してみた。
「破ぁーっ!」
村人Aは一瞬、怯えた顔をしたが、またすぐに笑顔になってしまった。
「ど、どうぞこちらへ」
ふむ、なるほど。これはどうやら相手に恐怖の感情を引き起こす能力らしいぞ。
これは使えるかもしれないと思ったけど、デニス達からも微妙な顔を向けられてて、この能力は周囲のすべてを傷つけてしまう諸刃の剣なのかもしれない。いやー、かっこいいなぁー。
「さぁ、この部屋へどうぞ」
武器で追い立てられることこそないが、やっぱり武装集団というのはそれだけで圧力になるなーと思いながら屋敷の1階の豪華な部屋に通される。部屋の中を見回すが、豪華な部屋ではあるし掃除も行き届いているが、窓はない。出入口は部屋に入ってきた扉だけだ。
私達を置いて、村人達は扉を閉め、そのままガチャリという鍵を閉める音も聞こえた。
「なんなんだよ、この村は!?」
苛立ったようにデニスが扉を拳で叩く。もちろんそんなことじゃ扉はびくともしない。
「あっ、お前らもきたのかー。ジェルメーヌ様まで……あー、困ったな」
部屋の中のソファから聞き覚えのある声が聞こえた。
「アルノー、ここのことも知っていたんですよね? なんなんですか?」
ソファで体を休めていたのは、村に入ったまま戻ってこなかったアルノーだった。
「このディラック村には神様がいるんですよ」
……は? なにを言い出すんだ?
「アルノー……まさか暴行を受けて脳が……」
「違います違います」
心配する私にアルノーが手を振る。
「神様と村人だけがそう呼んでる……妖怪みたいなもんがこの屋敷にいるんですよ。通称にっこり様と呼ばれてますけど本当の名前は誰も知りません。ただ笑顔を浮かべている神様ということです」
私は村人に張り付いたような笑顔を思い出した。その神様を信仰してるから、あんな笑顔なのかなぁ?
「にっこり様を飼うことで村に莫大な富がもたらされます。この屋敷はにっこり様を飼ってる犬小屋なんですよ」
莫大な富……それで、この村は裕福な印象があったのか。しかしアルノーの言葉からアルノー自身はにっこり様にいい印象を持っていないことがうかがえる。
「にっこり様は通常は2階の一番奥の部屋から出てくることはありません……でも一年に一回だけ、食事をとるために部屋から出てきます」
「食事というのは?」
私の質問にアルノーは苦笑する。
「生きた動物です。豚だったり牛だったり……その日に村を訪れた不幸な旅人だったり」
やっぱりそういう流れだったかー……
「にっこり様と交渉はできないの?」
「話が通じた……ってことは聞かないですね。話が通じる妖怪ならこの屋敷に閉じ込めておく必要はないと思います」
そりゃそうか。そりゃそうだよなぁー……
「にっこり様が部屋から出てくるのは夜中だったから、それまでに脱出しようと思って体を休めてたんですけどね、みんなもきちまったんなら、早めに行動しなきゃいけないな」
そのとき、扉の向こうからノックの音が聞こえた。
無言でアルノーの方を振り向く。
「いや、村のやつらならノックなんてせずに扉を開けると思います」
さっきも私達をここにつれてくるとき、ノックをしなかったもんな。
ノックはすぐに止んで、ドアノブを回すが鍵がかかっているのでガチャガチャという音がするだけだ。
「にっこり様がもう部屋から出てきた、とかは?」
「いや、この時間に出ることは……俺が知る限りはないはずですね」
扉はやがてガンガンという音が聞こえ始める。
ばきぃっという音が響いて扉に穴が空いた。剣かなにかで扉を壊したらしい。
「待たせた?」
そこから顔を出したのは、馬車に残って様子を伺ってもらっていたヨアンだった。
すごくシャイニングのジャック・ニコルソンっぽい構図だった。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科