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風習

「ん……?」

今日の目的地、ディラック村に近づいていくにつれアルノーが妙な声をあげた。

「どうしました?」

「あ、いえ……俺の村ではちょっと変わった風習がありまして……今の時季だったかぁ。忘れちゃってたなぁ」

なにかぶつぶつと言っている。風習?

「おい、どうしたんだよ、隊長? 危険なのか?」

副隊長のデニスがアルノーに確認をする。

「そう、だな……危険、だなぁ。うーん……俺が村の様子を確かめてくるから、お前らはまず待機していてくれ」




そのままアルノーは夕方になっても帰ってこなかった。




馬車からおりてデニスと話をする。

その間、ヨアンが馬車の中の掃除をしてくれていた。馬車の外で私、デニス、ローラン、フレデリックの4人が集まっていた。

「さすがに遅くないですか?」

「いえ、遅すぎます。なにかあったのかもしれません。誰かついていくべきだったか……」

セオリーでいえばもちろん誰かがついていくべきだったのは間違いないけど、ゆうてアルノーの実家だ。1人でいくと言われればそういうものかと思ってしまう。

「もう夕方ですし、暗くなってからでは状況確認も難しい。どう動くか決めなくてはいけませんね」

そのとき、村の方から2人の人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

デニス達にも緊張が走る。黄昏時だからだろうか、人影はかなり接近するまでまったく気付かなかった。

私が気づかなかったんじゃない。プロの兵士であるデニス達が気づかなかったのだ。


「ペドレッティ伯爵様の使者の方々ですね?」

人影はにこにこと笑みを絶やさない男女だった。

「うちの村のものが伯爵様にお仕えするなんて名誉なことでございます。今宵は酒宴を催しますので、さぁ、こちらへどうぞ」

「……先に村に入ったものはどうしましたか?」

私たちを村に誘おうとする男女にアルノーのことを聞く。

2人は同時ににこぉーっと笑顔をこちらに向けて言った。

「さぁ、こちらへどうぞ」

怪しい。

馬車に視線を送る。

「そうですね。馬車はここに止めさせてもらって、村に伺うとしましょうか」


2人につれられて、私達4人はディラック村に行くことになった。


ディラック村はかなり裕福な村らしい。

2人の男女に案内された村の中は、かなり立派な家が建ち並んでいた。

村の奥には一際豪華な館が建っているのも見える。私達はその手前の家に招かれた。

「……あちらのお屋敷は村長様のお宅なのでしょうか?」

私の問いに男が困ったような顔を向ける。

「あっちは村長ではなく……」

その瞬間、女が男を肘で突いてなにかの合図を送った。

男も困った表情を改めて、また笑顔を向けてくる。

「さぁ、こちらへどうぞ」

なるほど。おかしいということがよくわかった。




私達が案内された家が村長の家だった。

村の奥に見た大きな屋敷ほどではないが、一般的な村人レベルではないかなりの豪邸といえる。

村長は禿げた頭のおっさんだった。その後ろにさっきの男女が並んで3人とも笑顔でこちらを見つめてくる。

「ようこそ、ディラック村へお越しくださいました。私は村長のダミアンと申します」

「ようこそお越しくださいました」

村長の言葉に反応するように後ろの2人も口を開く。

気持ち悪い……

「うちの兵が先触れとしてこちらに伺ったはずですが、どうしましたか」

「そちらの方はこの村の出身ということで、実家で寛いでいるようでございます。皆様方は私がもてなしをさせていただきたいと存じます」

嘘だ。アルノーはそんなに責任感のない人間じゃない。実家で寛ぐにしてもまずは私に報告を入れるはずだ。

村長がなにか合図をしたのだろう、食事が運ばれてくる。

かなり豪華なものだ。伯爵家の普段の食事よりもかなり豪華。

資料を思い出す。この村の主要な産業は……麦だったはずだ。だったら裕福さは他の村とそれほど変わらないはずだ。なぜこの村はこんなに……?

「さぁ、まずは乾杯をいたしましょう」

村長がグラスを上げるのを手で制する。

「家族に酒を止められております。遺憾ですがお水をいただけないでしょうか」

村長ははっきりと困惑の表情を浮かべる。まるでお酒になにかお薬を入れたことを気づかれたかなーと伺うような表情だ。

「いや、一杯だけでも……」

「うちの義姉はとても心配症ですので、一杯だけでも飲んだと知られたらとても怒られてしまいます」

……それに水だったら味の違いにすぐに気づけますから。

「我々もジェルメーヌ様がお酒を召し上がらないのに、いただくわけには参りません。水をいただけますか」

私が圧力をかけて飲ませないわけじゃないです。本当です。ホワイト伯爵家ですから。

村長ははっきりと困ったような表情を浮かべ、それから後ろの女にぼそぼそと耳打ちをする。女は一礼をして出て行った。

「彼女は?」

「なに、おもてなしの準備でございます」


食事は普通に美味しかった。

途中で女が帰ってくる。

……武装した20人以上の村人を連れて。


デニスが立ち上がって武器を取ろうとするのを制する。

「この人数じゃさすがに無理よ。まずは座って食事をいただきなさい」

「は、はぁ」

村長が笑みを浮かべた。

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科

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[一言] 可憐なお姫様の命の危機か貞操の危機か
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