西部
むかーしむかし、あるところにとても仲のいい家族がおったそうじゃ。
可愛くて可憐で、なんかもう、どう褒めていいのかわからないくらいの天上人なんじゃないかと錯覚してしまう妹は西部に慰問に、伯爵と軍神とその嫁はシクス侯爵家にお礼に、詩人とその嫁は領地に残ったそうじゃ。
というわけで私は西部にいくことになりました。
自称可憐な妹ですので。こういうのはどんどん自称していきたい。
戦争は戦って終わり……というわけでは、もちろんない。
今回のガスティン侯爵家との戦争において、ペドレッティ伯爵領西部は一時的とはいえガスティン侯爵家に占領されていた。
その慰問をしなきゃいけない。税金的にも今年は優遇しなきゃいけないから、ある程度数字が扱える人間ということで、アメリーお義姉様か私のどちらかが西部を回るしかなかったんだけど、さすがに身重の人妻を派遣するわけにはいかないから、消去法で私ということで誰からも異論は出なかった。
援軍を出してくれ、戦争に決着をつけてくれたシクス侯爵家にもお礼を言うために誰かを派遣しなければならなかった。
ここにベルナールお兄様とセリーヌお義姉様、そしてお父様が行くことになった。
伯爵本人がシクス侯爵家に赴くことで、より強固な同盟であることを国内にアピールできるはずだ。
セリーヌお義姉様から(暫定)の文字は取れた。
お父様がベルナールお兄様とセリーヌお義姉様の婚姻を認めたからだ……馴れ初めを聞いてドン引きしてたけど。
ガスティン侯爵はどんな顔したのかなぁ、報告を聞いて。
アメリーお義姉様のお腹はもうすでにかなり目立つ大きさになっていて、夏にも生まれるんじゃないかという話だ。
家族のみんなが、早く赤ちゃんに会いたいって期待をしている。
男の子か女の子かはわからないけど、赤ちゃんが生まれる場所を守ることができたのは私の誇りだ。
ユーリお兄様は詩を作ってた。
まぁ、いつもどおりだった。
「では、いってきますね」
と、私。
「いってくる。留守を頼んだよ」
と、お父様。
「義姉上、ヤヒア子爵に伝言はありますか」
と、ベルナールお兄様。
「いってまいります」
と、セリーヌお義姉様。
「お早いお戻りをお祈りしております。いってらっしゃい」
と、アメリーお義姉様。
「騎士の勲が……」
ユーリお兄様だけはなんか詩を読んでた。
そしてみんながそれぞれの道に別れる。
……忙しいなぁ。乱世だもんなぁ。
「ふいー、疲れますね」
「お疲れ様です」
アルノーが声をかけてくれる。
やはりガスティン侯爵軍に一度は占領されたということがあるため、領民にも不安……不安とはちょっと違う微妙な空気が広がっていた。
なるべく多くの集落を周り、有力者と食事をしながら話し合いをもってそれをできるだけ取り除いていく。
7日間でいくつかの集落を周ったが、領民は一度はガスティン侯爵の領民になる気満々だったらしく、ペドレッティ家が再び領地を取り返したことに不安……不安ではないかな? なんだろう、ちょっと「一度裏切ってしまった罪悪感」的なものなのかな? そういったものを感じた。
西部のうちでも戦場に近かったあたりはガスティン侯爵家でも領民に対する工作をする時間がなかったためだろう、私達も受け入れてもらっているが、西側に進めば進むほど……ガスティン侯爵家領に近づけば近づくほど領民からいろんな感情の混ざった視線を向けられてしまう。
これが次の火種にならないといいんだけど……
ため息をついて手元の資料を見た。
「次はディラック村ね……今日はそこで泊まりかしら」
「あぁ、ディラック村にもいくんですか。何年ぶりかなぁ」
私の呟きを聞いたアルノーが懐かしそうに目を細める。
「知っているの?」
「えぇ、俺の故郷です。しばらく帰ってなかったなぁ」
あー、凱旋なのに、変な空気の中で申し訳ないなぁ……
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科