王者
「なるほど。さすがはベルナール・ペドレッティ様。お名前をよく聞くだけのことはありますね」
登山者がしばらくいなくなって、ベルナールお兄様が本陣に戻って汗を拭いている最中に山の下から声が聞こえてきた。
「あなたが一蹴なさったもの達は、ガスティン侯爵家の家中ではそれなりに名の通ったもの達なのですよ」
うーん、ガスティン侯爵家でプレイしたことはないから彼らが武力どの程度なのかはわからないけど……どっちにしろ武力100に及ばないのは知ってる。
「ゆえに、私が出ることとします。ベルナール・ペドレッティ様を討ち取れば……まだこの戦にも勝機がありますゆえ」
なに言ってんだ、侯爵令嬢。
いや、確かにそうだよ!? ガスティン侯爵家ナンバー1武力はセリーヌ・ガスティンさんで間違いないよ!?
でもあんた貴族の令嬢じゃん! なんで貴族の令嬢が一騎討ち所望してんのさ!?
しばらく混乱したが、よく考えたらベルナールお兄様も伯爵令息だったわ。立場はあんまり変わらんから、別に問題視することじゃない気がしてきた。
「昼食をいただいてから、そちらに伺うといたしましょう。熱烈な歓迎を期待いたします」
「気をつけて登山するようにな。登山中にケガをしてはつまらんからな」
汗を拭って気持ちよさそうな顔を浮かべたあと、ベルナールお兄様はフレデリックを側に呼んで、拡声の魔法を飛ばした。
「……ご忠告感謝いたします。あなたに会うことを今までどれほど待ち望んだのか、言葉にしても伝わりません。槍で伝えるといたしましょう」
槍でなにを伝えるつもりだ。怖いな、あの人。
「ジェルメーヌ、あれはどういう意図があったかわかるか?」
唐突にベルナールお兄様が私に振ってくる。
「セリーヌ様は……本気でベルナールお兄様に勝つつもりなのでしょう。それだけの実力があると自負しておられる」
指を1本立てる。
「私がベルナールお兄様の勝利を小指の先の指紋の溝の深さほども疑っていないのと同じくらい、ご自分の勝利を信じておられる。確かにベルナールお兄様が討ち取られれば、ペドレッティ伯爵家は瓦解するでしょうからね……まぁ、ベルナールお兄様の勝利を信じているのと同じくらい心配はしていますが」
ベルナールお兄様は自分の指紋をまじまじと見つめた。
「お前、マニアックな喩えをするなぁ」
「もう一つ、一騎討ちは目立つものということです」
2本目の指を立てる。
「目立ちますから裏でこそこそしていても気づかないかもしれませんよね……例えばココ将軍が見つけた獣道から部隊を送って急襲するとか」
ベルナールお兄様は満足そうに笑った。
「マリウスを呼んでこい」
シュヴァリエに獣道の守備をさせるか、なるほど。
「勇将ココが命をかけて守った道だ。1人たりとも通すな」
「任せておけ」
マリウスは一言で守備を請け負った。
「お前は……」
ベルナールお兄様が私の方を見たので、肩をすくめる。
「私は本陣にいますよ。敵が見つけた獣道は一本とは限りませんから、なにかあったときに本陣から人を動かします。私が動かないですむことを祈っています」
ベルナールお兄様は満足そうに頷く。
「えっと……」
少し遠慮がちな声が聞こえた。
「私は、どうしよう? 私もマリウス殿と一緒に守備隊を率いて守ろうか?」
ペラン子爵だった。
いや、あなた、子爵だから。当主は危険のない場所にいていただきたい。
昼もすぎたころ、ゆっくりと1人の女性が何人かを引き連れて登山してきた。リシャールの姿も見える。
待ち受けるベルナールお兄様を見て微笑みを浮かべる。
私は本陣からそれを見て、それから……
「ベルナールお兄様ーっ! がんばれーっ! 絶対王者ー!」
とりあえず応援したらベルナールお兄様は右手をあげて応えてくれた。
「あっ、姉上ファイトー!」
触発されたようにリシャールも声を上げる。
セリーヌはそちらには視線も向けずに、ただベルナールお兄様を見つめながら婉然と微笑んだ。
「ずっと、お会いしたかったですわ、ベルナール・ペドレッティ様」
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科