混乱
「ばーん」
戦場に私の声が響き渡った。
さて、長篠の戦いで織田軍が採用したとされる作戦で有名なものに鉄砲の三段撃ちがある。
火縄銃は弾込めに時間がかかるが、鉄砲隊を3つに分けて順番に撃ち続け、弾込めの時間のロスをなくしたというものだ。これにより織田軍は切れ目のない射撃を行い、武田騎兵は壊滅したといわれる。
しかしこの作戦は疑問視されている。こんな作戦はなかった、と。
では実際に武田の騎兵を止めたのはなにか?
これについて小説家の井沢元彦がこんなことを言っていた。
織田軍は三段撃ちこそなかったにしろ、大量の鉄砲を用意していた。その数はおよそ1000挺といわれ、当時としては破格の数字である。
これが一斉に射撃することで当時の人が誰も聞いたことがないほどの爆音が轟くことになる。武田軍も鉄砲を持っていたが、1000挺の鉄砲の同時運用など、当時の誰も考えてもみない画期的な戦法だ。
その爆音によって馬が冷静を失い、混乱に陥ったのではないか。
この世界には鉄砲はない。だから鉄砲で騎兵に攻撃することはできない。まぁ、それは仕方のないことだ。
だけど逆をいえば騎兵は鉄砲に攻撃されたことがない。
その爆音にさらされたことがない。
戦場には慣れているだろう。軍馬だから。
戦場で叫ばれる声にも慣れているだろう。軍馬だから。
……では戦場で聞こえる以上の音量の声はどうか。この世界で誰も聞いたことがないほどの爆音はどうか。
そりゃ、どんなに訓練された軍馬であっても、はじめての経験には……初体験にはドキドキしちゃうだろう。ドキドキして、もうらめぇってなるのは想像に難くない。はじめてだから優しくしてあげたかったけど戦争だから仕方がない。
私は無駄話をしながら騎兵の突撃を待っていた。
そしてガスティン侯爵軍がある程度の距離に近づいたとき、フレデリックに合図を送ったのだ。
「最大音量をガスティン侯爵軍の騎兵にぶつけろ」と。
私のふざけたような「ばーん」という声が騎兵の集団にぶつかり、馬は恐慌に陥った。
「おい! 暴れるな!」
「なんだ、くそっ! 落ち着け!」
混乱している様子が伝わってきてとてもかわいそう。
私はそのために200人の兵しか率いなかった。
あまりにも多数の兵だったり、軍神であるベルナールお兄様が部隊を率いていたりしたらリシャールは警戒しただろうから。
私はそのために馬防柵を強固なものにしなかった。
がっとがちに柵を固めていたらリシャールは警戒しただろうから。
私はそのために挑発を繰り返した。
怒りは目を眩ませるから。
馬防柵の前に空堀と土塁があるから、通常であっても突破は容易ではないはずだが、「柵」という目立つ建造物の前に空堀と土塁は地味なものだ。
そして地味だけど、とても効く。
「どうなさったのでしょうかー! リシャール様、がんばってー!」
負けないでもう少し、最後まで走り抜けてーっと応援していると、騎兵の一部がじょじょに混乱が落ち着いてきたようだ。すべての部隊ではない。あくまで一部だ。
旗を見ると、騎兵部隊の隊長として原作ゲーム、王冠の野望にも登場するイヴォンの率いる一部隊のようだった。統率力76の使いやすい良将である。
イヴォンの部隊は主力部隊の混乱をよそに、再びこちらへの突撃を敢行する。
なかなかやってくれる。自分の部隊だけでも混乱を収束させ、まとめあげるその手腕はお見事、である。
だけど、こちらもそれだけじゃない。
一発芸の爆音だけで終わりじゃない。
「槍構え!」
指示を送る。
柵のこちら側の私達の部隊には全員肩から斜めにベルトで固定した盾と、一般的なものよりもはるかに長い槍を装備してもらっている。
これで長槍を両手で扱いながら、防御力も期待できる。これを馬防柵の向こう側から突き出しながら……
イヴォン隊長の部隊は堀まで到達した。
ここからの槍と土塁に苦労しているようだ。
「今です、マリウス様!」
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科
イヴォン隊長:セバスティアン・ジョヴィンコ




