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帰郷

「アルノーとフレデリックは今後7日間この村に留まり、情報収集に当たれ。フレデリックの遠話の魔法で俺と伯爵領にいる父上に定期的に報告せよ。7日間、今日以上の状況の変化が起きなければ撤収せよ。その判断は任せる」

お兄様が指示を出している。

私はそれを頬杖をついたまま、座って見ていた。


お兄様にあれだけ暴言を吐いたのに、お兄様は土下座した私を笑って許してくれた。

いい人だ。

でもメイドのルネや、お兄様の護衛のみんなにはドン引きされた。

そりゃそうだよ。私だって引くよ。

引かなかったお兄様の方が変だよ。


王都近郊の村である。

ここで4頭の馬を入手した。

軍馬ではない。軍馬なんて転生前相場で4、5000万円くらいする。そんなお金はさすがにない。

でもこういうところで買える馬なら……そのためにお金だけは持ったまま脱出したのだ。

よかった、ある程度のお金があって! よかった、貴族で !

私とルネは乗馬できないので、私はお兄様、ルネはデニスにそれぞれ乗せてもらって移動する計画である。

替え馬が必要かとも思ったが、王家直轄領を抜けて、シクス侯爵家領に入ってしまえばとりあえず当面の危機は乗り越えられるだろうという予測から、とりあえず馬は4頭のみ。

もし途中で馬が潰れちゃったら、近くの村で買おうと思う。モニカ・アウスバッハさんみたいに。もしかしたらその村にハリケーンさんがいるかもしれん。知らんけど。


ふと気づくといろいろ準備をしている護衛の方々の前でお兄様がこっちを見ていた。

「どうかなさいましたか?」

頬杖をついたままの私にお兄様はなにかを考えながら口を開く。

「お前は……こういうことに才能があるのかもしれんな」

こういうことってどういうことですか。お兄様の膝から下を切り落とす才能? こっわ! 怖いわ、その才能!

「お前は俺と同じく、乱世向きの人間なのかもしれん。帰ったら父上にお前を取り立てるよう申しあげてみよう」

ふぇ?

ここで「誰が乱世向きなんです?」とか聞いたら「君と余だ!」とか言われちゃうかもしれない。そんなん絶対吹いちゃう。

「私はただの一般人……一般令嬢ですよ」

「なんで言い直したんだ」

肩をすくめる私に、お兄様のツッコミが刺さった。




4頭の馬で移動を開始する。

国王軍の追手はかかっていないようだ。

フレデリックからの報告によると私達よりも大物の貴族を多数処断したからではないかとのことだ。

その中にはシクス侯爵やガスティン侯爵も入っていたらしい。史実……いや、史実ではないんだけど、ゲームの展開通りである。

それぞれの息子たちは王家に復讐を誓い……ここから長い戦乱の時代に突入するのねぇ、と他人事のように思った。

どんな手段を使ったのかはわからないが、サヴィダン公爵家のロッド・サヴィダン公爵は王都から脱出に成功したらしい。すごい。偉い。


サヴィダン公爵はゲーム内でかなり評価されていた人物である。

王家直轄領の南側に所領を持ち、今後、長期にわたって王軍の南進を阻んだサヴィダン鉄壁公。

私はこの勢力でプレイしたことはなかったが、打倒王家の力強い味方と言えるだろう。

伯爵家領のお父様やもう一人のお兄様にもフレデリックからこの凶事のことは報告されたらしい。

そのままシクス侯爵家領に無事入ることができた。どうやら死地は抜けたらしい。とはいえ急いで伯爵家領に戻らなければならないのだが。


侯爵家領はお兄様がくんくんと匂いを嗅いじゃうくらい戦の匂いでむせ返るほどだったそうだ。

王家から軍が向けられる可能性もあるし、そもそもパスカル・シクスは血気盛んな人物。王家に先制攻撃をすることも視野に入れているのだろう。

デュマ宰相がそれを考慮していないとは考えづらいので、実際に侯爵側から攻めることはないだろうけど。


7日経った。

いくつかの新しい情報はあったが、あの凶事以上のイベントは特になく、アルノーとフレデリックは無事、村から撤収したようだ。

王軍とパスカル・シクスが国境で睨み合っているらしい。ただ、この兵力が衝突するかまではまだわからないところだろう。

準備万端で舞踏会を迎えた王軍に比べて、まったく警戒をしていなかったはずのパスカル・シクスが王軍と睨み会えるほどの兵力を、この短期間で動員できた事実は特筆すべきだろう。


このころになって南のノルカップ島を海賊が荒らしまわっているらしいという噂が流れてきた。

恐らくゲーム内プレイ可能勢力の海賊、サンディ・アンツだろう。これも要注意だ。シナリオが進むごとにじわじわと勢力を広げることになり、最終的にはサヴィダン公爵と戦端を開くことになるはずだ。


11日経った。

王軍とシクス侯爵家軍は結局両軍撤退したらしい。撤退中に王軍の一部隊がシクス侯爵家軍を急襲。それを読んでいたパスカル・シクスは見事な指揮で迎撃し、王軍に痛撃を与えたらしい。

そして私達は、ようやく、帰ってきた。


城門の外に誰かがいる。

「おーい! おかえりー!」

ぶんぶんと笑顔で手を振っている。

「兄上だな」

お兄様が呟く。

私達の長兄、ユーリ・ペドレッティだった。

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科

ロッド・サヴィダン:チロ・フェラーラ

サンディ・アンツ:ファブリツィオ・ミッコリ

ユーリ・ペドレッティ:リカルド・モントリーヴォ

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