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平穏

「は、はい、師匠からはファイアースターターの薬の作り方も教えて、い、いただきました。おそ、恐らく1ヶ月ほど服用して、い、いただければ、か、完治が可能かと思います」

ファンニ医師はロランスの話を聞いて、微笑みながら話した。

「い、今まで、よ、よくがんばりましたね」

ロランスはうつむきながら、小さな声で「よろひふおえあいひあふ」とだけ言った。


ロニーからカンデラ将軍のことを聞いたアルテレサ伯爵は、すぐにカンデラ将軍に書簡を送ったそうだ。

「貴殿のご息女のことを知らずに今まで貴殿を裏切り者と呼んでいたことを許してほしい。なにかあれば力になる」と。

それに対してカンデラ将軍は「世話になったアルテレサ家に対して後ろ足で砂をかけて出て行ったにもかかわらず過分な言葉を感謝する。実際に治療は受けられなかったにせよ、そこに至るまで尽力をしてくれたガスティン侯爵に仕えるつもりだが、旧主の恩は忘れません」という返信がきたらしい。カンデラ将軍は読み書きができない人らしいので、誰かに代筆してもらったのだろう。

この書状を読んでアルテレサ伯爵は「カンデラは真の忠義者だ」と小躍りして喜んだらしい。

自分のところには帰らないっつってんのに変な人だ。変な人だし、とても優しい人だ。


「いやー、よかったわ!」

再び図書館での自習中。

エルザがご満悦に笑う。

エルザはなんだかんだで牽引車としてとても優秀な人物だ。今回の件でも彼女の動きがなければ解決しなかっただろう。

美少女も領民に慕われているらしいことがわかったし。

アルテレサ伯爵とカンデラ将軍の関係が改善したことで、彼女が裏切り者の娘と呼ばれることはなくなる。

病が完治すれば「気持ち悪い」と呼ばれることは……まぁ、これはあるかもしれない。「本当に治ったの? 感染しないー?」なんて意地悪を言う人もいるかもしれないから、これはその後を見守るしかないだろう。

最善手かどうかはわからないけど、今できることはできたと思う。


それからしばらくの間は平和な日々だった。

「うーん」

「マリオンは読むのが苦手なの?」

読書に苦戦しているらしいマリオンに声をかけると、彼女は照れ笑いをした。

「なかなか難しくて……」

彼女の手の中にある本を見ると……農業のことについて書かれた本のようだ。そういえば彼女はブドウの産地の出身で、村に知識を持ち帰りたいとかなんとか言っていたような……

「うーん、これは、この本の中身を知っていれば村に帰ってから役に立つということかしら。だったら申し訳ないけど最初から難しい本を読んでも理解できないと思うわ」

「そ、そうですよね」

マリオンはしょんぼりする。

「まずは基本を大事にすること。いきなり難しい本を読んで理解するのではなく、簡単なわかりやすい本を読んで、理解できるようになるのがいいと思うわ……そうね。なにかの物語でも読んでみたらどう? 楽しみながら本を読んで文字を理解できるようになってからこういう本を読んでも遅くないと思うわ」

私には農業のこととかよくわかんないけどね。

「あの、楽しんでもいいんですか? 勉強は楽しみながらしてもいいものなんでしょうか?」

「もちろん」

私は微笑む。

「勉強がつらいのならやめたほうがいいと思うわ。どんなに必要なことであってもつらいだけのことは長続きしないもの。読書は楽しいことだし、計算は楽しいこと。私は、学問は楽しまなければならないと心から思っているわ」

マリオンは「ほあぁ」とだけ言った。なんだ、その鳴き声。


そんな和やかで、楽しくて、愛おしい日々も長続きはしなかった。


そろそろ夏らしさを感じる、深い春のある日、大柄な男が私の教室にやってきた。

学生ではない。ベルナールお兄様の部下のデニスだ。

「……ジェルメーヌ様、失礼いたします」

デニスがかけてくる声に周りの学生がややざわつく中、私はゆっくりと立ち上がり帰り支度をする。


こんなふうにデニスがやってくるなんてはじめてのことだ。

つまり、なんらかのそういう事態が起こったってことだ。

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科

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