疑念
とりあえず朝食は後回しにしてロタン教授に会う。
なんかユーリお兄様とベルナールお兄様とアメリーお義姉様もついてきた。お父様もついてきたそうにそわそわしてたけどさすがに人数多すぎるんでご遠慮願ったらしょんぼりしてた。かわいそう。
「ジェルメーヌ様、このたびのこと心よりお見舞い申し上げます」
応接間で待っていたロタン教授は私を見て頭を下げた。
「もう包帯も取っちゃったし、大丈夫ですよ……あ、ガーゼ目立ちますか?」
おでこが膨らんで見えたらやだなぁ。
「いえ、それほどは目立ちませんが……顔色もよさそうで安心いたしました」
「教授、ジェルメーヌ様はまだケガ人です。お話はお早めにお願いします」
アメリーお義姉様が口を挟んでくる。あんた、私のプロデューサーかなんかか! ……私、もしかしてアイドルだったのか?
「あ、アメリープロデューサー!」
「なんて?」
ガチの口調で聞き返された。この話題を振るのは金輪際やめておこう。
「……わかりました。確かにジェルメーヌ様に負担をかけるのはよくありません。ただ、私自身もまだ確信が持てないことがあるのです。どうか、私と牢獄のファブリスを会話をする機会を設けていただけないでしょうか」
なんかあるのかな?
ベルナールお兄様を見上げる。
ベルナールお兄様も少し迷ったようにこっちを見た。
「……教授1人だと心配だ。俺も一緒に行こう」
ロタン教授が頭を下げてから、いそいそと腰を上げる。
私もついていこうと腰を上げた。
「お前はダメだぞ」
ベルナールお兄様に突っ込まれた……ちぇっ。
「私の推測が当たっていたら……ジェルメーヌ様はこられない方がよろしいでしょう」
ロタン教授にも言われた。えっ、なんなの、それ。
ここからは私はついていけなかったのでベルナールお兄様からあとで聞いた話だ。
「先生! 助けてください!」
がしゃんっと、牢獄の鉄柵を掴んで叫ぶ少年。
顔は傷だらけで、まぁ、ベルナールお兄様は拷問を示唆してたから、そういうことなんだろう。
手の指はまだ10本ある。よかったねー。
苦虫を噛み潰したようなベルナールお兄様を前にロタン教授はファブリスに話しかけた。
「君は、あのときのことを覚えているかい?」
「僕はなにもしていないです! パーティー会場で歩いていたら、いきなり周りの人に取り囲まれて……!」
……現行犯だよね、君? 自己弁護するにしてももっとやり方があるはずだろう。
「ジェルメーヌ様を知っているのかな?」
「……お顔を拝見したことは、ありました」
えっ、どこで?
ファブリスは恐る恐るベルナールお兄様を見ながら言った。
「……ムウィ渓谷の戦いのあと、僕らは逃げるベルナール様とジェルメーヌ様を襲いました。そのときは簡単に返り討ちにあいましたが、なんてすごい武人なんだろうって思いました」
あぁー、あのときかぁー。あんときの生き残りかぁー。すごいな、ベルナールお兄様相手にして無傷で生き残ったなんて。
「俺は見覚えがないな」
うん、私も覚えてないわ。まったく覚えてないわ。
「学園の入学は誰の発案かな?」
「えっと……?」
まったく関係のない質問に飛んで、ファブリスは目を瞬かせる。
「覚えていないかな?」
「え、いえ……その、メンディ大司教猊下の発案です」
だよなぁ。私もそうだと思っていたことだが、ロタン教授は難しそうな顔になる。
「そのときに大司教と話をしたかい?」
「……はい、学ぶことの意義についてお話を伺いました」
ロタン教授はしばらく考え込んでいたが、やがてベルナールお兄様に振り返った。
「私の推測は当たってしまっていたようです。お話をさせていただくのでとりあえず戻りましょう……君はもうしばらくここにいたまえ」
「えっ?」
助けてもらえると思っていたのだろう、ファブリスは呆けた顔をするが、ベルナールお兄様とロタン教授はすでに踵を返していた。
「先生! 僕は本当になにもしていないんです! 助けてください! 先生! お願いです! 先生! 先生ー!」
彼はどこまでも叫んでいたのだそうだ。
応接間に戻ってきてもロタン教授はしばらく黙り込んでいた。
「……私も書物でしか見たことのない魔法でした」
魔法なんだぁ?
全員の注目が集まる中、ロタン教授は話しはじめる。
「とても、邪悪な魔法です」
じゃあく。
知ってる。メンディ大司教大概邪悪だぞ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科