宴席
「先ほどのスピーチ、感動しました! 僕もこの学園で生きる術を身につけたいと思います!」
はいはい、がんばってねー。
「ジェルメーヌ様のようになりたいです」
そうなのぉー?
私はこの若さで伯爵家を切り盛りしながら、学園創設に尽力した偉人的な扱いになっているらしい。
伯爵家を切り盛りしてるとかいっても、そもそも私1人の力ではない上に、むしろ私に権限を渡してくれているお父様の器が大きいというだけの話だし、学園創設に尽力したのは確かではあるけども、これによる他家からの人口流入で伯爵家領が富むのではないかって打算もあったし、偉人だったら前世で社畜やってなかった。課長もぶち転がしてた。
入学式のあとに学生の懇親のためのパーティーが催されていた。まぁ、それほど大規模なパーティーでもないし、庶民の学生が多いから、貴族的なやつではないのだけど。
軽食とお酒の出る、本当に簡単なものだ。
なお、私は今日はアメリーお義姉様に禁酒を命じられた。
私がなにをしたというんだ……
私はパーティー会場を歩いていた。
学徒代表でスピーチをしただけあって顔も覚えられたし、反応もされる。概ね好意的で、ありがたい話である。
「素晴らしかったですよ、ジェルメーヌ嬢。私にも教育の大事さを再認識させていただいたことを感謝したい」
ロタン教授がワイングラスを片手に私に声をかけてくる。
この人は魔法学の教授で、お父様からの疎開の提案に一番最初に乗ってくれた人だ。
この人自身も魔力を持っていることもあり、何度か連絡役として伯爵家の手伝いもしてもらっている、私にとっては一番身近な教授でもある。
「ジェルメーヌ嬢、この方を紹介させてください。あなたと同い年らしいから、学友として共に高め合うことができるはずです」
おや、そうなんですね。
ロタン教授の影には女の子がいた。赤毛でちっちゃくて、上目遣いで私を見つめている。服を見る限り貴族階級ではなさそうだけど、割合いいもののようだ。
「はじめまして。ジェルメーヌ様……私はオーギュスト村からきましたマリオンといいます。私の村では文字が読める人なんて誰もいなかったから……ここでいっぱい学んで村に持ち帰りたいと思います」
……オーギュスト村! ブドウの産地! つまりワインの産地だ。彼女には興味があります。
彼女に挨拶を返す私にロタン教授が耳打ちする。
「……彼女には微弱ながら魔力があるようです。ここで学ばせれば必ず伯爵家のためになるでしょう」
ロタン教授最高かよ。
「はじめまして、ジェルメーヌ様。以前、子爵領においでになったときはお会いすることができませんでしたが、ずっとお話は父から伺っておりました。だから、今日はお会いできて嬉しいですわ」
「あなたのことをジェルメーヌと呼んでいいかしら? 王都の学園ではお話できなかったけど、向こうでもあなたとは同学年だったのよ。だから仲良くしましょうね」
ナタリー・ペランは白い髪の儚げな美少女で、エルザ・シクスは勝気そうな赤毛の女の子だった。どうやらエルザとは学園でも同じだったということか……
私は王の妹であるルイーズ殿下から王の凶行のことを相談されていたから脱出のためにいち早く動くことができた、という建前で動いていたから、彼女がそのことを知ったらルイーズ殿下と私があまり親しくなかったこともバレてしまうかもしれない。そのあたりはケアしていくとしよう。
そして、ナタリー。なにこの子、可愛い。女の私から見ても、そう、なんていうか「守りたい」タイプ。超絶美少女。やばたにえんだ。
「学園で教える立場になるのは教授方だけではありません。私達にように貴族に生まれたものがそのあり方と誇りを領民に教えることも大事だと思いますわ。お2人にも何卒、ご助力いただきたく思います」
微笑むと、2人も頷いてくれた。
歩くたびにいろいろ声をかけられる。
別に食事をすることが目的のパーティーではないからいいのだけど。話しかけられるたびに出会いがあるので、ありがたいことではあるし。
会場内を歩いている中で、1人の少年とすれ違った。見覚えのない顔だったので私は会釈のみをしただけだったが。
私とすれ違った瞬間に少年が私の方をすごい勢いで振り向くのが視界の端に見えて……
私は意識を手放した。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科