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伝説

トマスは背の低い、赤毛のおっちゃんだった。

私が普段お父様とかユーリお兄様とかベルメールお兄様みたいな高身長の人に囲まれてるので、背の低いおっちゃんというのはそれなりに新鮮だ。

「ご、ご機嫌麗しく存じます、領主様」

領主様はいないぞ。ご機嫌よう、代理人です。

「緊張しないでくださいませ。私達はあなたの話を伺いにきたのです。むしろお酒でも飲んでリラックスしていただきたいくらい」

私の言葉にアメリーお義姉様が「えっ?」みたいな顔でこっちを見た。こっち見んな。飲まなきゃいいじゃないのさぁ、あなたは。

ユーリお兄様は「飲んでいいのか?」みたいな顔すんな。いいわけないだろう。

トマスも「えっ」という顔で腰を浮かす。あなたも飲みたいんだね。

「ダメだぞ、トマス」

村長の言葉にしょんぼりして座り直した。ユーリお兄様もしょんぼりした。




そしてトマスの話を聞く。


トマスはこの村で麦を作っている農家だ。

刈り取りも終わり、一年の打ち上げで仲間達とひたすら飲んで、深夜になって解散した、その帰り道。


……この村に限ったことではなく、この国では一般的なのだが道端に神様の石像が置いてあることがある。

女神パルミラは金運の女神として知られていて、この村の道端に立っているそうだ。


トマスは女神パルミラの熱心な信者というわけではなかったが、酒を浴びるほど飲んで、いい気分になっていたため、石像の前でふらふらと揺れながら祈りを捧げたそうだ。

「軽い気持ちで……そう、またいい酒が飲めますようにってくらいの祈りでした」

日常の中のちょっとしたお祈りだったわけだ。


そうしてまた歩き出すと前からなにか光が見えた。

「最初は誰かが夜警をしてるのかと思いました。夜警は村人が順番でよくやってるんで……でもしばらくして気づいたんです。これ、違うって」

夜警だったらランプを手に持って歩くだろう。

その人は全身が光っていたそうだ。


もう人間じゃないじゃん。

灯りいらず! 便利かよ!


お酒で気が大きくなっていたトマスは、明らかに人間じゃないそれにも特に動じることなく、むしろ近づいていって「こんばんは」とか言ったそうだ。

私には無理だ。

「顔を見たら、これが見たことのないほど美しい……あ、いやっ! アメリー様とジェルメーヌ様も美しいのですが!」

そんな忖度いらんから話を続けてくれぇー。なんで女神と美を競わんといかんのかよ。アメリーお義姉様は美しい系じゃなくて可愛い系だしな。


その見たこともないほど美しい……でもあとで顔を思い出そうとしても思い出せなくて、美しいと思った記憶しか残っていないそうだ……女性は微笑んで口を開いた。

「聞いたこともない言葉でした」

なにかむにゃむにゃ言う女性にきょとんとした顔を浮かべるトマス。それを見て女性は不思議そうな顔をしたあと、自分の言葉が伝わっていないことに気づいたのだろう、「仕方がないわね」という顔をしてトマスの手を取った。

「いや、大胆な娘さんだと思いました」

娘さんじゃなくて女神である。

「俺は結婚してるから」とか、トマスは言ったんだけど女性は構わず、トマスの手を引いて歩き続けたそうだ。

トマスも手を振り払うまではしなかったんだよね? すけべぇー。

「しばらく歩いたところに森があるんです。麦畑のちょうど端っこで……森といっても大したもんじゃなくて、俺らも、この村の人間はみんな子供のころ森の中で遊んだような場所です」

あぁー、いいわねぇ、そういう場所。

トマスは手を引かれながら歩き続けたが、やがて女性が森に入ってしばらくした場所で立ち止まったそうだ。

そこには大きな自然石がどーんとあり、子供達はその石に登ったりして遊ぶような場所だったそうだ。

女性はそこでようやくトマスに振り替えると、笑いながら石の下を指差したそうだ。

トマスがそこに目を向け、それから再度女性の方を見たときには、手を繋いでいたはずの女性は影も形もなくなって、トマスは暗い森の中で1人だったそうだ。


「それからは酒のたびに村の連中にこんなことがあったんだって話してたんですが」

鉄板の飲みネタにすんな。

……うん、でも間違いない。

「ユーリお兄様」

「そうだね。俺の知ってる伝説とほぼ同じ。その女性は女神パルミラ本人だろうね」

ユーリお兄様の言葉にトマスが「ひえっ」と短く叫んだ。女神だとは思っていなかったようだ。


この辺りの地理を調べると谷には温泉が湧いている場所もあるそうだ。

温泉の近くであれば、あれが出てくる可能性はあるだろう。


「じゃあ、その場所、掘ってみますか」

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科

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