略奪
自分達はメンディ大司教に別の任務を与えられているので、長くこの村にとどまれないことを伝えると村人さん達は目に見えて落胆した。
そんな任務なんてないけど。
「しかし安心するがいい」
……あれ、なんかベルナールお兄様が打ち合わせにないことを言い出したぞ。
「この女は魔法使いだ、今から大司教猊下に魔法で連絡をし、守備隊を派遣するよう要請してやろう」
私か? ……なんで魔法使い扱いなんだ?
村人さん達は感心した目で私を見てくる。そんなイノセントな瞳で見るな!
「やってやれ、マリー」
「……わかったわ、ルイ」
ルイとマリーは偽名である。さすがに本名は名乗れないし。
目をつぶって、なんか口をもごもごさせて……
「……大司教猊下に連絡をいたしました。守備隊派遣には時間はかかるようですが、なるべく急がせるとのお言葉でございます。その間にお話を伺えますか」
私の脳内のメンディ大司教がそう言ってた。あとは知らんぞ。知らんからな。
村での情報収集では、新しい情報はやはり隣村の略奪行為が中心の話題だった。
ささっと話を聞いて、村から撤収する。
村人さん達は見送ってくれた。
メンディ大司教ってのは、それなりに領民に対してはいい人なのかもしれない。
略奪はダメ! なんて言える世界じゃない。
国際法があるわけじゃないし、そもそもどの国のものであれ、歴史書を読んでみると「略奪をしなかった」ということが特記して書かれるほど「略奪をしなかった」というのは珍しい行為なのだ。
あれは貧しい歩兵がもらえるボーナスみたいなもんだしなぁ。でもそのかわり住民の憎悪は買う。
「ベルナールお兄様、ペドレッティ家では略奪は禁止してみませんか?」
「お前……略奪を禁止したら俺じゃなく、兵達が困るんだぞ。せっかく戦ったのに収入がないなんて」
そうなんだよねぇ。略奪が当たり前の世界なんだもんねぇ。
「でもベルナールお兄様、先ほどの村人さん達はガスティン侯爵に憎悪を向けていましたよ。略奪がなければ最初から住民と良い関係が築けるのでは」
「うん、その効果があるのは認めるけどな」
つまり兵に別の収入があればいいんだろう?
「ベルナールお兄様ががんばって敵将をいっぱい人質にとれば身代金を兵達に配分できるじゃないですか。体を動かして、いい汗をかいてお金を稼ぎましょう」
「いっぱいの人質かぁ」
ベルナールお兄様はぼやいたが「そんなの無理だ! できない!」とは言わなかった。
ジェルミ教団領を離れるころになって新しい噂が聞こえてきた。
ガスティン侯爵家軍が略奪をしながら撤退した日の夜、ガスティン家の戦乙女、セリーヌ・ガスティンが率いる数名の斬り込み隊がメンディ大司教の暗殺のために襲撃し、神聖騎士団のエモン団長と一騎討ちの末、どちらも傷を負うことなく逃げ出したらしい。
そういえばメンディ大司教を相手にするときに一番有効なのは暗殺って、前にベルナールお兄様も言ってたな。
武力94のエモン団長が立ち塞がったわけだが。
武力92対武力94の一騎討ちかぁ。見応えありそうだなぁ。
この襲撃によって、武名を高めたのはセリーヌ・ガスティンとエモン団長。
今後メンディ大司教は暗殺に十分に注意してくるだろうから……全体的にはマイナスの気がする。
ここでの時間稼ぎでガスティン侯爵は無事撤退できたと言えるのかもしれないけど。
というわけでムウィ渓谷の戦いは、こうして終わった。
ガスティン侯爵家の大敗……といえるほどの被害は受けていないが、それでも巨人汁による病によって貴重な時間が失われた。
しかし、軍は経験によって強くなるものだとすれば、負けたことがあるというのがいつか大きな財産になるのかもしれない。
スラムダンクの山王工業の監督がそんなことを言ってた。
残党狩りのメンディ大司教の軍の生き残りに、どうやらベルナールお兄様の顔を知っていた人がいたらしく、ベルナール・ペドレッティはまたいらんところで武名を高めた。
同時に私が一緒にいたことも認識されていたらしく、私は「ペドレッティの林檎姫」と呼ばれ出したらしい。
林檎? 可愛いじゃん……と思っていたら、私の肌の白さと果肉の白さを同じと考えて、中は白いけど外は返り血で真っ赤ということらしい。
はっはっはっは、上手いことを言う。
ぶち転がすぞ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科