因縁
ベルナールお兄様が無事帰還して、兵士も1人たりとも失われることはなくて、祝勝パーティでどんちゃん騒ぎをして、二日酔いの頭でいくら考えてもわからないことがあった。
ワイン美味しかった。いっぱい飲みました……吐きそう。
お父様もユーリお兄様もベルナールお兄様も、あれは酒豪なんてもんじゃない。酒だ。酒本体だ。酒でできてるからいくらでも飲めるんだ、きっと。
ニコラはなぜベルナールお兄様を敵視したのか。
あれだけ「武勲を認めない」と言い張ったのか。
ニコラ・シクスはのちにパスカル・シクスを裏切る人間である。
最初は兄弟仲がもともと悪く、パスカル・シクスへの当て付けにベルナールお兄様を攻撃したのかと思った。
しかし、それであれば別にパスカル・シクスから諫められてもベルナールお兄様への攻撃を止める必要はないはずだ。むしろベルナールお兄様がパスカル・シクスに庇われてからが本番だっただろう。しかし彼は怒りをあらわにしながらもパスカル・シクスに反論することなく退室している。
「ニコラ様っていうのはー、どういう方なんですかー?」
アメリーお義姉様に聞いてみた。
「あっ、大きい声出さないで……」
あんたもかー。
とりあえず、アメリーお義姉様にお互いの体調が回復してから聞いてみた。
「ジェルメーヌ様は40年前に当時のシクス侯爵が、この北方に攻め込んだことはご存知ですか?」
「えぇ、伺いました」
辺境仲良しクラブ結成秘話だよね。いい話だねぇ。
「当時のシクス侯爵、ジョエル・シクス侯は、北方侵略に失敗し失脚なさいました。そのあとを継いだのがジョエル様の従弟で、今のパスカル・シクス侯のお父様にあたる方です」
ふむ、なるほど。
「ジョエル様はシクス家領の中でも僻地といえる場所に領地を与えられ……いわば閉じ込められておられました」
まぁ、それだけ辺境仲良しクラブ攻めの失敗が響いたんだねぇ。
でも僻地に飛ばされて閉じ込められているのなら問題がないのでは? ……という私の顔に苦笑を浮かべながらアメリーお義姉様は言葉を継ぐ。
「それから時が流れて、ニコラ様がお生まれになったのですが……そのときになにがあったのかは私も存じません。恐らく女性関係のなにかだとは思うのですが、断言はできません。ニコラ様は一時、シクス本家よりジョエル様に養子に出されました」
「パスカル様とニコラ様は異母兄弟なのですか?」
私の質問にアメリーお義姉様は首肯する。
「先代侯爵は女性関係は派手な方でしたから……今から10年前にジョエル様がお亡くなりになり、再びニコラ様が本家にお戻りになるまで、ずっとニコラ様はジョエル様に育てられてきました……私はニコラ様ご本人と会話をする機会には恵まれませんでしたが、北方について下に見る思想も受け継いでおられてもおかしくはないと思いますわ」
はぁー、めんどくさっ! めんどい! めんどいなぁー!
でも理由はわかった。これはわかってもどうしようもない類だわ。
それらは設定資料集には書かれてなかったなぁ。
そうか。設定資料集も万能ではないということがわかっただけでも十分とすべきかな。
さて、ベルナールお兄様が戦から帰還するころにはマリウスのところではオリーブ収穫の真っ盛りだった。
「どうだ、すごいだろう」
アドリアンが胸を張る。すごいけど。
だからついにオリーブオイルを使っての石鹸ができるかどうかの実験だ。
……実験といっても転生前知識で、オリーブオイルから石鹸ができることは知ってるんだけどさ。
あとはいろんな香油を試していい匂いにしていきたい。
ファンニ医師に効果を検証してもらったりとか、時間はいくらあっても足りないけど、それでも石鹸はこれから作ることができるだろう。
量産体制にも入れると思う。
お父様の命の蝋燭はきっと伸びた、はずだ。
「おぉ、これはいい匂いだ!」
「ふーむ」
完成したばかりの石鹸で家族みんなに石鹸を使って手洗いをする習慣をつけるように説明をする。
今までの石鹸というのはくっさいくっさいやつだったので、このオリーブオイルとバラの香油を使った石鹸は、とても使いやすいはずだ。
「大変です!」
そんな中、アルノーが駆け込んでくる。
「ガスティン侯爵家軍に動きあり! 恐らく近日中にアジャクに向けて出陣するものと思われます!」
きたわぁ。ついにきたわぁ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科