退出
まず私がなすべきは舞踏会からの脱出。最低でもお兄様と一緒に。そして絶対お兄様とはぐれないこと。
それ以降も問題は山積みなんだけど、とりあえず目の前の問題を片付けていこう。
国王は……うん、まだ談笑中。
ここで注意すべきは国王配下の連中だ。
デュマ宰相(知力100、政治力99、魔力91)は実質的な国王の軍師。
親衛隊長ドゥトゥルエルさん(武力99)がいて、デュフォー将軍(統率力92)がいて、クルビス将軍(統率力82、武力89)がいて、あとはメンディ大司教(統率力82、魔力100)の腹心で神聖騎士団団長のエモン卿(武力94)がいる。
それ以外にも武官連中がずらり。
あー……そういう視点で見ると、この場にいる文官の少なさなー。ゲーム内のシナリオ1時点での国王勢力は圧倒的であり、武官も文官も充実しているのだ。文官がこの場に少ないのは、もう、そういうこととしか思えない。
国王やる気じゃん。
やる気、元気、根気の三本の木を植えてるじゃんってやかましいわ。
この国王、王冠に支配される前はドラゴンを封印した初代国王に並ぶほどの大器って言われてた人だったのになぁ……
「お、お兄様……」
「ん、なんだ?」
とりあえず1人だったらベルナールお兄様は死地を突破できそうだし、実際に突破したんだが、私も一緒に連れて行ってほしいわけで、それ以前に惨劇がはじまる前にこの場から脱出ができれば十全である。
お兄様の袖をくいくいひいてみる。
「あの、ちょっと体調が優れません」
「どうした? 拾ったものを食べたのか?」
貴族っ! 私達貴族っ! 拾ったものは食べません! 貴族だからね! 貴族、拾ったもの、食べない!
いや、拾ったものは食べるのが伯爵家の流儀とか、そういうのはないよね?
しかし兄は本気で心配している目だ。
普段はこんなキャラだけど戦場では光る系……あぁ、三国志の許褚タイプなんだな。
「お兄様、月は1つですよ」
「……うん。うん?」
首を傾げられた。蒼天航路の方ではなかったらしい。いや、それは今する話じゃなかった。
「そうじゃなくてですね……体調が優れないのでお暇できないでしょうか」
「そうか……では陛下に挨拶をしてから下がらせてもらおうか」
いやっ、それは本末転倒ですぅ。
「あいたっ! あいたたたた、お腹が痛いっ!痛いなぁー! これはすぐに帰らないといけないぞっ! 緊急事態だぞっ!」
……いや、この演技は自分でどうかと思う。もうちょっとこう……もうちょっとさぁ、自分。
ちらっと横目でお兄様を確認。
「大丈夫か?」
本気で心配している。
すごいいい人なんだけど、私はこのお兄様の今後が心配です。
「お、お兄様……すぐに帰らせていただきたいのです」
ベルナールお兄様はしばらく考えていたが頷いた。
「お前を家に送ってから俺1人で戻ってくるとしよう……肩を貸そうか?」
まぁ、いったん兄と一緒に王城の外に出ればこっちのもんである。なんだかんだ言って兄を王城に向かわせなければいい。
……でも、肩?
私はどうやらかなり背が低いらしくさっきからずっと見上げながら会話している。この人、190くらいあるよねぇ?
肩なんか借りたらすっごい斜めになりそう。
「ふむ、仕方がない……ほら」
兄は私に背中を向けてしゃがんだ。
……おんぶぅ? いや、いいけどっ。いいんだけどっ。ちょっと恥ずかしいくらいだから問題ないけどっ。
恐る恐るおぶさろうとして……おっぱいが弾んで仰け反った。
「おっ、おぉぉぉ……」
自分でもびっくりした。
「お前、おっぱいでかいな」
なにを真顔でいうの、この兄。課長ほどの不快感がないのはやっぱりイケメンだからかなぁ。課長はねっちょりしてるもんなぁ。
今度はしっかりと抱きつくと、兄は立ち上がる。周りの知り合いらしい人に会釈をしてからホールを出て行く。
私は兄の背中から周囲を観察していた。
ドゥトゥルエルがホールから出て行く私たちに気づいて、デュマに耳打ちする。
2人はホールから出て行く私たちを、見ていた。
こわぁ……
怖い……だけど、いいもんねー! 今、お前らの隣にいるメンディ大司教は今から5年後のシナリオ2で国王を裏切って独立するもんねー! ばーかばーか!
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科
デュフォー将軍:ルチアーノ・スパレッティ
クルビス将軍:ビンチェンツォ・モンテッラ
エモン団長:アンジェロ・パロンボ