忠臣
「ようこそいらっしゃいました、聖女猊下」
出た。これが私の感想である。
原作ゲーム、王冠の野望に登場しないながら設定資料集の中の小説で人気が出た人。
政治力99は王国内で1位タイ……なお、彼女に並ぶ政治力99は宰相デュマ大公である。王国にはユニコーンイベントで政治力が上がった人がいない限り政治力100という人物はいないため、紛れもないトップ治世家。
バイヨ伯爵家の知恵袋ではあるものの、海賊の侵攻により本業が活かせない人。
慣れない軍師役を押し付けられてしまっている人。
そして……
「こうして実際にお目にかかるのははじめてですね。ソフィア・ダウリーと申しますわ」
バイヨ伯爵家の分家であるダウリー男爵家のエース、ソフィア・ダウリー。
斜陽のバイヨ伯爵家を支え続けた忠臣。
小説のラストはバイヨ伯爵家の血族がすべてサンディ・アンツに斬られた中、領民の命を守るために最後の交渉に向かう彼女の決意のシーンで締められている。
この交渉をこなしたあと、自害することを示唆して……
このシーンの挿絵は彼女の微笑みの表情が描かれており、ネットでは「芸術作品」と呼ばれるほどのものだった。
小説ではそのあとは描かれておらず、実際にゲームにも登場しないことから彼女がどうなったのかは不明だ。
でも、シナリオ1からシナリオ2に進むにあたってノルカップ島の人口は微減ですんでいる。
もし彼女が失敗していたら人口が大幅に減っていてもおかしくはなかった。
恐らく、彼女は最後の交渉に勝ったのだろう。
ゲームに登場しない中で、かつ現在王国に生きる人物の中では最大の大物であった。
いや、私が大物と言っているのは能力値のことじゃない。
「はいはい、どーもね! あーしは聖女。こっちはクレっさんね」
クレールさんって「クレっさん」なんだ……
「教団とバイヨ伯爵との盟約が実現すれば、これからは私が伯爵家に伺うことになるでしょう。よろしくお願いいたしますわね」
クレールさんは上品に笑う。本当にこの人は海上と人格が変わるなぁ。
ソフィアさんはちらっとこちらに視線を向けた。
「あー、そっちは……」
「狐のかたはジェルメーヌ・ペドレッティ様ですね。猫のかたは存じ上げませんが」
聖女の紹介を遮って、ソフィアさんが私の方を見つめてきた。
きつねさんは南の島にまで名前が知られちゃっているらしい。まぁ、伯爵家の令嬢が火傷して顔を隠すことになったなんて醜聞だしなぁ。
猫の人は……まぁ、航海前に仮面をつけはじめたし知らなくて当然である。
「はじめまして。セリーヌ・ペドレッティですわ」
「えっ? なんで猫?」
セリーヌお義姉様が名乗ったらソフィアさんが混乱した。そりゃそうなるよ。
「素顔ではなく失礼いたします。ジェルメーヌ・ペドレッティと申しますわ」
私が名乗ったら、ようやく混乱が解けたのか、ソフィアさんは頷いてくれた。
私のことを知っていてくれたのはありがたいけど、聖女が言う「つれてったらいいことがある」というのはソフィアさん絡みではないのだろうか。ソフィアさん絡みにしては反応が淡白だ。
「ソフィ、皆さんを紹介してくれないか」
「あっ」
男の声が聞こえたかと思うと、ソフィアさんは真っ赤になって顔を伏せ、私はガッツポーズをした。
ジュニオール・バイヨ。
学園でのベルナールお兄様の1年先輩。
バイヨ伯爵家の嫡男。
小説ではサンディ・アンツによって斬首される直前までソフィアさんのことを案じていた、めちゃくちゃいい人。
ベルナールお兄様は病弱でよく休んでいたから顔も思い出せないと言っていたが……確かに病気持ちらしく顔色はあまりよくないが、高身長のイケメンだ。
そして……
私はソフィアさんを王国最後の大物と位置づけた。
なぜならソフィアさんは、このジュニオール氏に甘酸っぱいやつを抱いているからだ。
恋愛偏差値が高いのだ!
……あれ、聖女の言う「いいこと」って甘酸っぱいシーンがいっぱい見れてお得だよ、ってことかなぁ?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん