船上
数日、船に乗っていた。
船団を組むわけではなく、この1隻のみの移動だ。
しかしこの船は神聖騎士団の旗艦であり、最新鋭の魔具を積んでいるため、並の船では追いつくこともできないということだった。
心配していた国王勢力の海軍に見つかることもなく、特にトラブルらしいトラブルもなく船は進んでいく。
座興として、セリーヌお義姉様と神聖騎士団の大男が試合をすることになり、3人連続で瞬殺し、4人目でわざと負けていた。
まぁ、同盟相手に恥をかかせるってのもよくないし、その意味で3人抜きの4人目で負けというのはいい結果だと思う。
クレールさんはわざと負けたことがわかったのか苦笑していたから、あとで騎士団の人々は怒られちゃうのかもしれないけど。
さらに数日後……
その日は朝からクレールさんがぴりぴりしていた。
「……」
難しい顔をして、海図を見ている。
「なにかあったんですか?」
航海中に私の世話をしてくれていた女の騎士に尋ねる。海軍にも数が少ないとはいえ、今回のように聖女や貴族が乗り合わせたときのために女性の騎士もいるのだ。やっぱり薄着だけど。
「いえ、順調に進んでいます」
順調なのに難しい顔?
「目的地が目的地ですから……」
彼女の苦笑に気がついた。
目的地はノルカップ島……海賊、サンディ・アンツの勢力圏内だ。
「今日の昼ごろくらいからサンディ・アンツの制海権内に入る予定です。万が一がありますので、船室から出ないでいただくようお願いいたします」
「はぁい、わかりました」
まぁ、船の上で私が役に立てることはない。
そもそもクレールさんも1隻だけで戦うようなことは考えないだろうし、この船の速度を生かして逃げるのであれば、私は邪魔にしかならないだろう。船室に閉じこもるのは当然だった。
「ちなみにクレール提督……というか、神聖騎士団の方々はノルカップ島まで航海したことはおありなんですか?」
「はい。まだ国王が乱を起こす前のことにはなりますが、何度もノルカップ島へ船を出したことがあります」
なるほど。ということは例えば岩礁などがあったとしても位置などは把握しているし、平時であれば入港までは間違いなくできるということか。
しかしノルカップ島まで航海していたのが乱を起こす前ということだったら、サンディ・アンツが暴れはじめたという噂が立ちはじめたのが舞踏会以降だから、サンディ・アンツが支配して以降のノルカップ島に向かうのはさすがの神聖騎士団としてもはじめてということになる。
恐らく今まで使っていた港は使えないだろうし、バイヨ伯爵家の人と海路の打ち合わせをしているとは思うけど、恐らくははじめてのコースなのだろう。
それはクレールさんもぴりぴりするというものだ。
はじめての道で、敵がいるかもしれない……そんなの、陸路でも緊張する。
大丈夫かなぁ。
「大丈夫だとおもーよー。別にイヤな感じはしてないしー」
聖女がケラケラ笑う。
部屋に閉じこもるのも暇なので、セリーヌお義姉様と聖女でお茶をしていた。
「王女殿下救出のときもそうでしたけど、そういう、敵の接近する雰囲気とかわかるもんなんですか?」
「なんとなくねー」
セリーヌお義姉様のほうを見ると、特になんの反応をすることもなくお茶を飲んでいたので、そういうものなのかもしれない。
ベルナールお兄様の気持ち悪いやつと同じなのかなぁ……
そしてサンディ・アンツの船に捕捉されることもなく、私達は無事にノルカップ島に到着した。
クレールさんが昔、きたことがあった港ではないらしく小さな港だったけど、まだサンディ・アンツが支配していない、バイヨ伯爵家が運営している場所があるというだけで心強い。
あとは、私達が島に来たことに気づいたサンディ・アンツが港を封鎖しなければいいなぁ……
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん