出航
「提督閣下、出航の準備は整っております!」
海の男っぽい毛むくじゃらの半裸の大男がクレールさんに声をかけてきた。
半裸だけど多分この人も騎士だ。
神聖騎士団って本当に独特な組織だなぁ。
大男が声をかけた瞬間にクレールさんの顔つきが変わった。
それまではにこにこと微笑んでいたおばあちゃんだったが、いきなり目つきが変わる。
「お客人の前でさぼってあたしに恥をかかせるやつはいないだろうね!? そんなやつは(令嬢が言ってはいけない言葉)を切り取ってご令嬢と呼んでやるから覚悟しておけと伝えておきな! (令嬢が言ってはいけない言葉)はサメの餌として有効活用してやるから安心するんだね!」
……クレールさん、優しそうな人かと思ったら違った。
まぁ、海上で荒くれ者を統率してるような人だもんなぁ。特に船の中なんて閉鎖空間でトップに立ってるような人だし、こっちの方がそれらしくはあるのかもしれない。
(令嬢が言ってはいけない言葉)をサメの餌にすることでなにが有効活用されてるのかはわからないけど。
「驚きましたか?」
「うわっ」
いきなりエモン団長に声をかけられたからそっちの方が驚いた。
「お、驚きました」
「やはり彼女の変わりようをはじめて見たら驚きますよね」
いや、クレールさんじゃなくてあなたに驚いたんだけどね。
「クレール殿は海の上では人格が変わるタイプです」
なに? ポケモンなの? クレールさんはポケモンで、オーキド博士も知らない「うみのうえではじんかくがかわるタイプ」なの? ほのおタイプに弱いの? 船燃えたら困るからほのおには弱そうね!
「陸上では私のことも立ててくれますが、共同作戦などで私が船に乗り込もうものならぼこぼこにいじられます」
「当たり前だろうが、エモン! この(令嬢が言ってはいけない言葉)野郎! 共同作戦中ってんならお前は客じゃなくて同僚だ! しかも海の上ならあたしの方が専門家だ! だったらあたしのいうことを聞かせてなにが悪い!」
おー、なるほど。
「エモン様。クレール様の言い分ごもっともですよ。海上での作戦に誇りを持った大変素晴らしい方ではないですか。もしエモン様にご不満があるのならクレール様をうちにお招きしちゃいますよ」
うちに海ないけどな。
私の言葉にエモン団長は苦笑し、大司教は爆笑した。
大司教、爆笑してちゃダメだろう……
当のクレールさんはにやりと笑っていた。
「気に入ったね、ご令嬢。あんたにはにはノルカップ島までの快適な船旅を約束してあげよう。あたしのいうことをちゃんと聞くならね」
ありがたいことですね。
私の横でセリーヌお義姉様が「ふーん」と吐息のような声を漏らした。
「私もクレール様とは戦場でしかお会いしたことはなかったですからね」
……あっ、そうか。セリーヌお義姉様はガスティン侯爵がジェルミ教団に喧嘩売ってから、うちにくるまでしばらく時間があったものね。ガスティン侯爵領に海はなくても、攻め込んだときに海上からの支援を受けたのかもしれない。
「……好ましい方だと思いますよ。私には海上作戦のことはわかりませんが、兵士の目は悪くない」
まぁ、セリーヌお義姉様とは違うタイプの指揮官だとは思う。
セリーヌお義姉様は「戦乙女」だから……なんていうか「綺麗な指揮官」だものねぇ。
「おい! 聖女猊下とご令嬢方の荷物を持ってやんな! 麗しい方々のエスコートをするんだ! あたしに恥をかかせるんじゃないよ!」
「へい!」
クレールさんが船に向かって歩き出し、周りの騎士団の人が荷物を持ってくれる。
騎士……うーん。
いわゆる「イケメン」の騎士は1人もいない。
大男がいっぱいである。これはクレールさんの好みなのかなぁ。恵体が好きなのかもしれない。
「ジェっちゃんいこっかー!」
出航である。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん