提督
聖女はうちを訪問した翌日にはもう教団領への帰途へついていた。
忙しい人だ……まぁ、元気な顔が見れてよかったけど。
しばらくしてセリーヌお義姉様が持ってきたのが……猫ちゃん仮面だった。
いや、そういうの作るんじゃないかと予想はしてたけどさ! ほんと、君ら夫婦、お似合いだよ!
「……で、誰なんですか?」
「えっ、セリーヌですけど……もしかしてジェルメーヌさん、私のことわかりませんか?」
悲しそうな声を出されてしまった。
どうやらセリーヌお義姉様は仮面かぶって名前をごまかすつもりはないらしい。仮面を被る意味が本格的にない。
「……いえ、私はセリーヌお義姉様のことは大好きですからわかりますけど、ベルナールお兄様みたいに仮面を被ることで名前を変えるのかなーと思いまして」
「あぁ、旦那様の謎のうさちゃん仮面はひどかったですね……」
ひどさでいえば本名を明かしちゃってるセリーヌお義姉様も大概ですけどね。仮面の意味というツッコミすら億劫になるところがね。
セリーヌお義姉様はなんでこれで「ベルナールお兄様とは違うんです」みたいな雰囲気になってるのかわからない。
このやりとりを少し離れた場所でベルナールお兄様が満足そうに見ているのが気になった。
仮面でノーカンにはならないからね? ベルナールお兄様は仮面かぶっても一生ベルナールお兄様だからね。
さらにその隣でアメリーお義姉様がこっちを見ながら考え込んでいるのも気になる。
アメリーお義姉様には必要ないものですから! 本当に! フリじゃなくて!
「これがお世話になっているペドレッティ伯爵家の風習なら、ウヴェナー伯爵家にも取り入れて……」
みんな落ち着け! お願いだから落ち着いてくれ!
結局護衛としてセリーヌお義姉様についてきてもらうことになった。
猫ちゃん仮面はセリーヌお義姉様が気分によってつけたり外したりしている。セリーヌお義姉様の美貌を隠すのは罪なんだけどなぁ。
道中は特になにかが起きるわけでもなく、ジェルミ教団領の本拠地で港湾都市アジャクに到着する。
「ジェっちゃーん、ようこそ、アジャクへー! ……と、誰? にゃんちゃん?」
聖女が仮面をつけたセリーヌお義姉様を前に首を傾げた。まぁ、聖女は素顔のセリーヌお義姉様しか知らないからなぁ。
「ごきげんよう。セリーヌ・ペドレッティですわ」
「え、セリちゃん? なんで?」
なんでかは私も知りたい。
「うーん……?」
聖女は唸りながら私達2人を眺めて……
「ファンシーか!」
私の狐面はあくまで火傷を隠すためなので、セリーヌお義姉様とは違うんですよ……
ファンシー狙ってないんですよ……
「よーう!」
「お久しぶりです」
後ろから声をかけられた。大司教とエモン団長だ。
2人は私たちを見て首を傾げる。
「お伽噺?」
違うわい。
今回のノルカップ島訪問は大司教とエモン団長は同行しない。本来は2人ともとても忙しい人だし。
だからジェルミ教団から派遣されるのは聖女と……
「揃ったようですわね……あらあら、きつねさんと猫さんね。可愛らしいこと」
この人には一度会ってみたいと思っていたのだ。
武力81、知力80という海上の軍師。
王国におけるセリーヌお義姉様に次ぐ武力ナンバー2。
神聖騎士団海軍トップのおばあちゃん提督でありエモン団長に並ぶ二枚看板の1人。
綺麗な花を咲かせる人。
目を細めて上品に笑う老婆、クレール提督だ。
「クレール、俺の友人の奥さんと妹だ。快適な船旅を頼むぜ」
「えぇ、承りましたわ、猊下。聖女猊下もあわせてこのように可愛らしいお客様に乗船いただくとなると腕がなりますわね」
高武力の荒々しさなどまるで感じさせずに、上品にころころと笑うクレールさん。
クレールさんはセリーヌお義姉様と私の仮面を見て、また笑った。
「うふふ、お似合いですよ」
笑われた……
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん