諫言
聖女を招待しての夕食の席。
ベルナールお兄様とセリーヌお義姉様とアメリーお義姉様に許可を取って、ノルカップ島に出かけることにする。
「俺を護衛に……ダメだよな?」
当たり前です、伯爵。ベルナールお兄様は最初から諦めていたようだ。
もし、本当にベルナールお兄様じゃなきゃいけないってときが来たら送り出してあげるから、今は居残りしてほしい。
「じゃあせめて謎のうさちゃん仮面を……」
「なにがせめてですか」
ちっともせめてになってないじゃないか。
「旦那様、私が護衛しますから……」
なにいってんだ、伯爵夫人……
「言っておきますけど私が認める人を護衛につけないと旅行は認めませんからね」
旅行じゃないんだけどなぁ。
でも今回は海路を通るとはいえ、王家直轄領を横切ることになるわけだ。セリーヌお義姉様が心配する気持ちもわかる。
「えっと、ロランスにお願いしようかなーと」
私の言葉にセリーヌお義姉様は首を傾げる。
「もう学園ははじまっています。学生の本分である学業を疎かにさせるのはいかがなものかと」
せっ、正論だー! ぐうの音も出ない正論だー!
将軍に任命したばかりのアルノーはお父様の護衛でペラン子爵領に同行している。
他に兵士は、いるんだけど、セリーヌお義姉様が認めるかといえば微妙……あれ? 本当にセリーヌお義姉様についてきてもらうしかないのかな?
セリーヌお義姉様はドヤ顔をし、ベルナールお兄様はそれを羨ましそうに見た。
「ところで、今回お会いするであろうバイヨ伯爵のご子息とベルナールお兄様はお知り合いと伺ったのですが」
「バイヨ……? あぁ、知ってるぞ。確か1年先輩になるはずだ」
しばらく考えてようやく思い出したらしい。それほど印象に残る人ではなかったのかもしれない。
「体が弱い人でな。よく休んでいたのを覚えている。だから名前は覚えているけど、顔は覚えてないな」
それは……可哀想としか言いようがない。体が弱いのは本人の責任じゃないし、なのにこんな戦乱の世の中に生まれてしまうだなんて不幸としか言いようがない。
「バイヨ伯爵……」
アメリーお義姉様が呟く。
「確か……諫言の家ですね?」
諫言の家? あ、設定資料集の小説に中にそんなことが書いてあった気がする。
私はうろ覚えだったが、聖女がアメリーお義姉様に反応した。
「そうそう、諫言の家! すごいじゃん! よく知ってんねー! さすがはユーリっちの奥さん!」
そうなんですよ。私のお義姉様はすごいんです。
諫言の家。
これは王国である程度の敬意を持って知られている家だ。
数代前の国王が重税で民衆を苦しめていたことがあったそうだ。
当時の国王の権力はあまりにも強すぎたため、英雄の後裔である三侯爵もそれ以外の貴族も従うしかなかったそうだ。
しかしただ1人、王の側近の1人だった当時のバイヨ伯爵だけが王を批難した。
王は激怒し、バイヨ伯爵を牢に入れたそうだ。
牢の中からも国王を批判し続けるバイヨ伯爵に当時の宰相であったサヴィダン公爵は「これ以上の批判は命を縮める。あなたは陛下に殺されるべきではない」とバイヨ伯爵に諫言をやめるように忠告するが、バイヨ伯爵は自分以外に国王に意見をする忠臣がいないことを嘆き、宰相は国王を諌めることができたにもかかわらず責務を果たさなかった、と罵ったそうである。
結局、サヴィダン公爵の助命活動もむなしくバイヨ伯爵は国王によって処刑された。
その数年後、国王は王太子だった自分の息子に暗殺される。
新たに国王になった王太子は、バイヨ伯爵家の名誉を回復し、バイヨ伯爵家は今後、いかなる諫言を行っても罪に問われることはない、と発言した。まぁ、諫言で罪に問われちゃ割に合わないし、私の前世感覚では当たり前なんだけど。
これが「諫言の家」バイヨ伯爵家である。
どうせだったら今の国王に諫言してほしいものだ。
国王の側近という立場にはないから無理なんだけど。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:きつねさん